ナンパした美少女は幽霊でした
桜の花びらが空中にてワルツを美しく舞う姿を、虚ろな瞳で眺めながら僕は学校へと登校していた。
僕の名前は浅井優。高校二年生だ。
季節は四月。
一年生は期待と不安に胸を膨らませ、二年生は眠気と無気力で心が憂鬱になり、三年生は将来の進路の事で頭を悩ませている季節である。……恐らくだが。
少なくとも二年生である僕の中では、眠気と無気力がコラボして体中を支配している。正直、直ぐに帰宅して暖かい布団に包まれたい。
だが、悲しいかな。それが許されないのが親の支配下で生活をする高校生の宿命。
自分の欲望を剥き出しにして、本能で行動しようものなら母の鉄槌が下される事は必至なのだ。
そんな母に対抗する術や度胸を持ち合わせていない僕に出来る事はただひとつ。
大人しく学校にいくことだけなのだ。
「おはようー、優」
突如、僕の背中に快活な声が体当たりしてきた。
振り返るとそこにいたのは同じクラスメイトである、今村剛であった。
「おはよう、今村。朝から元気いいな」
「そういうお前は眠そうな顔をしているな。どうした、寝不足か?」
「いや、結構寝たんだけど、どうも朝は弱くてな…。きっと低血圧のせいなんだろうな」
僕は目を擦りながら答えた。
低血圧なのかどうかは血圧計で計った事がないのでわからないが、僕は恐らく低血圧なのだろうと勝手に思い込んでいる。
「大丈夫なのか?朝飯ちゃんと食ったか?俺のパンをやろうか?」
そんな僕の適当な回答に対して、今村は深刻な表情をして鞄からパンを差し出してきた。
今村剛。
中肉中背、黒の長髪で素朴な顔立ち。性格はお人好しで真面目。素朴な顔立ちに似合わず何事にも積極的な為、クラスメイトからそこそこ人気がある。
「いや、いいわ……」
そう言って僕はこのお人好しで真面目な友人の、親切心で差し出してきた「食べかけのパン」を丁重に突き返した。
そう、彼は加えて純粋な天然なのだ。