四十話「やつあたれば」
「そもそも、これ、元に戻るのよ……気にしてたら、戻った瞬間素の大きさとの差に凹むでしょうが!」
もちろん、あたしが気にしていればの話だ。
「お姉ちゃん……」
「って、何その目? べ、別にあたし気にしてないし……」
だから、ブラッドに何か言いたげな目で見られたって、あたしとしては否定するしかなく。
「いえ、そうではなくて……何のお話です?」
「へっ? え? あ」
勘違いに気づいたのは、アレクに問いを投げられて。
(そういえば、かみさまたち の かいわ、あたま の なか に ちょくせつ きこえてきたんでしたね)
たぶん、アレク達には聞こえていなかったのだ。つまり、あたしのツッコミもアレク達に誰へ言っているんですかと質問されても仕方なく。あたしの正体に関わることだけに、詳細な説明は不可能。ぼかしたとしてもまた神の声を聞いたと言うことで大事になるのは目に見えている。
「何でもないわ。そう、なんでもない」
あたしとしては頭を振って見せるしか無かった。やるせなさでぐっと拳を強く握り締めても。
「そう、ですか? 何かある様ならすぐに言って下さいね。その、使徒になるというのがどういうものなのか、恥ずかしながら知りませんし」
「大丈夫、少なくともああいう風になることはなさそうだから。……さて」
心配げなアレクへ無理矢理笑顔を作って肉塊を示すも、もう限界だった。あたしは欲した燃える怒りをぶつける相手を。そして、丁度良い相手が示したところにいたのだ。
「アレク、この状態でおんぶして貰いっぱなしもあれだから」
「あ、すみません」
まず、降りる旨を伝えて、アレクライダー状態を解除する。流石に使徒になったのにアレクにおんぶされたままは恥ずかしいし、おそらく戦いにくい。
「これでいいわ……じゃ、どれぐらいこの状態で居られるかわからないし、さっさと終わらせて貰うわよ?」
口にしたのは事実であると同時に建前。成り行きでアレク達も知らない上位存在になってしまった訳だが、力の使い方は何となくわかる。八つ当たりの準備は出来ていた。
「っ、ふざけるな! 終わらせると言われて『はいそうですか』と終わらせるとでも? そもそも、それが使徒? ただおっぱいがおっきくなって髪の色がちょっと変わっただけじゃないですか」
「知らないわよ。容姿はあたしの意思で変えた訳じゃないし」
激昂した肉塊の指摘にあたしは視線を逸らして嘆息する。と言うか、あたしこそ文句が言いたい。確かに暗黒神官とはバレないだろうが、この姿ではまるであたし自身がコンプレックスを抱いたから胸を盛ったみたいではないか。
「……まぁ、良いでしょう、来なさい。返り討ちにして、ボクちゃんが失敗でもないことと、あの幽霊の言ったことが嘘っぱちだって証明してあげちゃおうじゃないですか」
「へぇ、さっきはブチ切れてたのにもう落ち着いたのね」
演技かそれとも熱しやすく冷めやすい性格なのか。元のウザい対応に戻った肉塊に皮肉を言いつつも、身構える。
「この素晴らしい身体を制御するには冷静な思考が不可欠でしてね? 神に差し上げる品を戦いに使うのは不本意ですが、こんなことも出来るんですよぉ、ホラ」
「っ」
予想はしていた。だから、驚きはしないが肉塊のやったことは単純。取り込まれた行方不明者達を盾にする様前面に移動させると同時に祈る様に手を組ませたのだ。
「「フォース・ブリッド」」
「フォース・ウォール!」
女性の上半身二つが祈りの姿勢から放った『神気』の弾丸を使徒になったことで使える様になったと思われる『神気』の壁で防ぎ。
「はああああっ」
大部屋の床を蹴ってあたし自身の構築した壁を突き破る形で自分から肉塊に向けて飛び込む。
「「なっ」」
後ろと真正面から驚きの声があがるが、当然だ。傍目からすれば、自分から取り込まれようとしている様にしか見えないだろうし、実際使徒になる前でのあたしあったら肉塊に接近されればなすすべはない。『神気』の弾丸で前方の肉塊を貫くのは厳しかったし、仮に穴を開けたとしても大したダメージにならないのがお約束だ。
「良くあるパターンとしては傷ついても再生して塞がるって言うのもあるわね……まぁ」
どちらだったとしても関係ない。
「は、ははははは。お馬鹿さんでちゅねー。自分から取り込まれに来るとは――」
肉塊は理解できていないようだったが、結論から言うなら、幽霊の言うことは正しかった。
「剥奪」
ただ、触れて奇跡の一つを行使するだけ。
「三人なら丁度良い、二人の捧げものの間に、あい……あれ? おかしいですね、身体が動かな」
勝ち誇ろうとした肉塊が違和感を覚えた様だが、当然だ。あたしは暗黒神が与えた肉塊の恩恵を奇跡によって剥奪したのだから。
(仕える神が同じで行使者の方がより高位の場合のみ使用可能って条件狭すぎの様な気もするけど)
ピンポイントに役に立ったなら良しとすべきか。
「なん、動、動けな……あ、おい、ボクちゃんの身体、どう」
「わざわざ届く位置まで下げてくれてありがとう」
もはや静止に近い程動きの緩慢になった肉塊に礼を言うとあたしは両の手のに『神気』を纏う。
「本当は刀とか使いたいところだけど」
『神気』で武器を作って見た目が漆黒の刀になりましたなんて事になったら目も当てられない。ここまで正体がばれずに来ているのだ。手刀にグレードダウンしたとしても、構わなかった。
「じゃ、返して貰うわよ?」
「ぐぎゃあああっ」
恩恵させ剥奪されれば、肉塊は行方不明者達をどうこうできるような力はない。あたしの手は肉塊を斬り裂き、取り込まれていた人達をえぐり出したのだった。
次回、エピローグ




