四話『これって夢?』
「何だ、今日も図書館か?」
あたしがそう気づいたのは、懐かしい顔と出会ったからだった。少なくとも今、同じ学校の制服を着ているはずがない人。
(先輩、変わってしまったのよね……男子校に進学してから)
どう変わってしまったかは、精神衛生上言いたくはない。だが、ここ半年以上出会っていない先輩の声は非常に懐かしく聞こえた。
(疲れてるのよね)
今日は色々ありすぎた。異世界に迷い込んだかと思えば、延々と森を歩き、美形に拾われて硬くはあるものの真っ白なシーツを敷かれたベッドにありつけたのだから。
(こんな夢を見てしまったのも、きっと疲れてるからよ)
「ねー、今日あのお店寄ってかない? 携帯見せると10%引きらしいよ」
「……やっぱ妹って言っても、二次元と現実は違うよな」
先輩が去れば、次に浮かんできたのは同じクラスの友人、そして、兄。走馬燈とかでないと思いたい。と言うか、兄よあたしに謝れ。
(けど……こんな夢見るなんてもうホームシックとか?)
「いや、それについては俺が説明しよう」
「誰っ?!」
ぼんやりとした思考がはじけ飛んだのは、まったく聞き覚えの無い声が割り込んできたからだ。
「正しく力を授ける為に、少々心の中を覗かせて貰ったのだ。先程のものはその二次的な作用に過ぎない」
「いや、それよりもだ……心を覗くっ?!」
こちらの質問を無視して説明を続けようとした声の主にもう一度問おうとしたあたしだったけれど、気がつけば思わず叫んでいた。
(ちょっ、あたしのプライバシーは? って言うか何それ?)
「安心してくれたまえ、取得した情報は個人的なものと言うよりも君がどのような世界で暮らしてきたかという指標にする為のものが主だ。あくまで力と資質を授け、円滑に事情を説明する為以外の活用もされないのでね」
「へっ」
「そして、自己紹介が遅れたね。俺は――この世界の人々が言うところの暗黒神にあたるものだ」
あたしが叫んだ時に振り返っていたのもある、声の主がこちらに向き直り始めていたのもある。二つの理由で、あっけにとられたあたしがようやく目にすることが出来たのは、いかにも古代の発掘品的な仮面で顔を隠した一人の男性だった。
(お約束をお約束にする為にあつらえたような状況よね)
自称『神』との出会い。そもそも、何故仮面を付けているのか。
「正確に言うなら俺は神ではない」
「えっ」
しかも、いきなり前言の撤回、意味がわからないとはこのことだ。
「俺は君の世界で言うところの、留守番電話に録音された音声とかとあるコンピュータプログラムのようなものなのだよ。自我はなく、決められた手順に従って対応するだけのね。たいてい質問されるようなので、答えておくと、この仮面は神と言えば美形と安直にくっつけようとする人々に反発してつけたらしい」
「じゃあ、実際は?」
「不細工というわけではない。実際にも美形であると言っておこう。そもそも君ならば、努力次第で本物の俺に会うことも可能だろう。何故なら君に救済措置として授けられるのは、暗黒神官としての資質と今の世界で不自由なく暮らしてゆけるレベルの資質に見合った力なのだから」
それは、あたしに暗黒神官をやれって言うことだろうか。
「資質は授けるが、強制はしない。俺は、君の様な何らかの作用でこの世界に来てしまった人間を救済する為のシステムのようなものだ。もっとも、勘違いしないで欲しいが、君がこの世界に流れ着いたことに我々は何の責任も負っていない。これは、神々が善意で行うボランティアだと認識して欲しい」
「ボランティア、ねぇ」
「俺に出来るのは、異世界から流されてきた人の存在を感知し、最寄りの神殿へ啓示という形で連絡することとこうして夢の中で異邦人に生活基盤として使える資質を与えることだけなのでね」
そりゃ、神の如き力を手に入れてやりたい放題したいとかそんな大それた事は言わない。元の世界に返して欲しいと言うのが一番の願いだったけれど、このシステムさんによると、それは不可能とのこと。
「君がここに流れ着いたことについて我々は責任を持たないと言ったと思うが、そもそもこの異世界間の移動自体神の力ではないのだよ」
「ええと、それって」
「君が元の世界に戻りたいなら、神をも越える必要があると言うことだ。少なくとも、今この世界にある神々は恒星間をワープするようなほどの力さえ持ち合わせていないのでね。せいぜい死者を蘇生することが出来るぐらいだ」
ししゃそせいでもじゅうぶんすごいとおもうなんていってはだめなんでしょうか?
「さて、ここからは他言不要に願うが……そもそも、君の居る世界に神は殆ど残っていない」
「え゛」
「過去、己が欲望を果たしたいが為に神の名の下に侵略戦争を起こした愚か者がいたせいでね、何人もの神がこの世界を見限って姿を隠したのだよ。そして、実際のところ、冷凍睡眠のような状況にある。そう言った神々の残した俺のようなシステムは動いているので、世界に支障が出ることはないのだが」
この世界には神の力を借りて奇跡を起こす神官という職業があるとシステムさんは言った。
「この神官の起こせる奇跡がグレードダウンする。もっとも、君のように救済措置で神官としての資質を授かったものは、特例として神が眠っていようとも起きていた時と変わらぬレベルの奇跡が起こせるだろう」
不安になったあたしを安心させる為だろうか、システムさんはそう補足すると笑顔を見せ。
「ただ、君の居る光国は光の神を国教とし、暗黒神を崇める者を異端と弾圧する国なのでね、注意したまえ」
「まてい」
最後に大きな爆弾を投げつけた。
「一歩間違えばバッドエンド一直線じゃ無いのよぉぉぉぉっ」
「そうは言われても、君の適正に一番あっていると言う理由で俺が選ばれたのでね」
あ、視線逸らした。っていうか、本当に自我のないただのシステムなんだろうか。
「ちょっと、待……」
ちなみに、光の神は二番目にこの世界の人々へ失望して眠りについた神らしい。まぁ、他の神を崇める人々を弾圧してれば、そうなるでしょうねとか妙な納得をしつつ、あたしの意識は闇に呑まれ。
「……あ、れ?」
気がつくとベッドの上、朝日が窓から差し込んでいた。
「夢?」
救済措置という名の資質を授与する夢会話。
尚、システムさんの格好や性格はオリジナルの神様が決めてますので、趣味とか趣向が反映される場合も。
続きます。




