三十九話「神と怒りと悲しみの」
「何それ?」
理解不能と言い換えた方が良いだろうか。と言う過去の幽霊空気読めない系なのと思わずジト目で睨んでしまったが、気にするそぶりすらなく。
「お嬢さんって漂流人でしょ? かつ見たところ神官みたいだし、それなら間違いなく成功すると思うんだよ。漂流人って神から資質を授けられるんでしょ?」
「そんなことまで」
「生きてた時に知り合った漂流人から聞いたことがあってね」
「へぇ……って、そうじゃなくて!」
使徒は拙い、拙かった。例えあの元暗黒神官の様な肉塊にならなかったとしても、あたしがなると思われるのは暗黒神の使徒なのだ。しかも、その使徒の容姿も知らない。もし、仕える対象が暗黒神だって丸わかりの姿だった日には、あたしのこれまでの苦労はパーである。
「相じゃなくて、何?」
「うっ、それはその……う」
だからって、暗黒神官だからこの場で使徒にはなれない何て言えるはずもない。きっと、この幽霊もあたしが暗黒神官だとは思っていないからこそ、よかれと思って進めてるのだろうが、ありがた迷惑この上ない。
「どうしろ、ってのよ」
幽霊が勧めてくるのだから、きっと使徒というのは取り込まれた女の人達を助け出せるような力を持っているのだろう。でなくては、全部うまく行くなんて言えない。
(つまり、使徒になっちゃえば正体はばれるけど、取り込まれた人は助かって、かわりにあたしは異端としてアレク達に追われる、と)
元々逃げ出すつもりもあったのだ、今更かも知れない。使徒の力があればアレク達と戦わず逃げられるかも知れないし。
「自棄になったあの肉塊に何かされる訳にもいかないものね」
廟の入り口の結界の時は運が良かったが、今回は駄目だ。誤魔化す方法を思いつかない。一応、おまけに付けて貰った魔除けの薬草だって手元にある。立ち去ることを、逃げ出すことも想定して薬草をおまけに付けて貰ったというのに。
「この魔除けの薬草を燻せば、取り込まれた人と肉塊との間に拒絶反応が起きて取り込まれた人が解放されるんじゃないかなんて考えてみたけど」
分の悪い賭けだし、使徒になった方が助けられる見込みが高いことはわかっているのだ。
「で、使徒になるって言うのは」
どうすればいいの、とは言葉を続けられなかった。
『案ずることはない。姿を見ても俺の使徒だとは思われない様に使徒の容姿についてはこちらで調整しておく』
直接頭の中に語りかける声が割り込んできたのだから。
「ちょ」
『資質を授けた神官の窮地に何もしないのでは沽券に関わる、というわけではないがね。以前、こちらの意向とは全く関係のない、望んでも居ないことをやらかす輩にうんざりしていたと話しただろう? その手の者を断罪もしくは強制してくれるというなら、手を貸すのは正当な対価だ。もっとも、今回の使徒としての容姿を決めるのは、俺ではない』
「え?」
『良かれこそ良きなり、私に仕える者を救うため、己の立場さえ危うくしても構わないと言う貴い気持ち、嬉しく思います。故に、今回のあなたの使徒としての姿は私が担当させて頂きますので安心してください』
うわーい、なにこれ。暗黒神様だけじゃなくて光の方の神様まで話しかけてきたんですけど。
「はぁ、至れり尽くせりすぎね。ええと、幽霊さん? 名前知らないし、幽霊さんで通させて貰うわよ? 使徒になるにはどうするの?」
若干顔をひきつらせつつも、この上使徒の成り方まで神様方に聞く訳にも行かず、あたしは半透明の人型に尋ね。
「幽霊、さん? あ、そうだね。ぶっちゃ蹴ると、やりたい様にやってくれるといいよ」
「は?」
一瞬あっけにとられつつも、無茶苦茶言い出した幽霊にどういうことなのと視線を投げ返す。
「実はね、神々の意向と資格さえあれば、手順は自分で決めちゃって良いらしいんだよ。知り合った漂流人はステッキを振りながら呪文を唱えてたし。『ようは変身ってイメージを補強出来るようなもんでええんやろ? 変身言うたら魔法少女やで』とも言ってたかな」
「ちょっ」
ということ は あれ ですか。
「日曜日の朝からやってる大きなお友達が大好きそうなアニメのキャラクターのノリで変身を?」
どこからツッコめと。そもそも使徒だし、魔法少女ちゃうし。って、行けない、幽霊の知り合いだったって先人に口調が引っ張られた。
「もう、いいわ。よーするに、ノリで何とかなるってことでしょ?」
変身、そのシチュエーションに憧れてたとかそんな事はない。ないったらない。百歩譲って憧れてたとしても、版権モノの変身シーンをそのまま引っ張ってきたらあたしはただの痛い人だ。小学生だったら、セーフだったかも知れないが、年齢的に遅すぎた。
(と言うか、アニメとかで変身するヒロインってそーゆーのを場合によってはいい歳してやってるのよね。恥ずかしくないのかしら、あれ……じゃなくて、集中集中)
残念ながら、あたしには瞬時にそれっぽい呪文や身振り手振りを短時間で考え出す方面の才能はない、だから。
「はああああああっ……はぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
拳を握り締めると全身に力を込め気合いを入れる。すると、視界が急に白く漂白され。
「な」
「お姉ちゃん?!」
ブラッド達の声は聞こえる。そして、身体には力が漲り。
「くっ」
急に胸が苦しくなる。
(なに、これ? まるで、無理矢理きつい服を着ているかの様。それに、何故か胸が重く……おも、く?)
嫌な予感がしたあたしは、視界を染めた白が薄れ消え去る中、視線を自分の胸に落とした。
「っ」
パッツンパッツンだった。ばいんばいんだった。
『スタイル、気にされてた様でしたので、よかれと思って胸は増量しておきました』
「っざけるなあああああーーーーーーーっ!」
相手が神様で有ることも気にならない、あたしは怒りと悲しみに打ち震えながら絶叫したのだった。
怒髪、天を突く。
返信は少年マンガ系のノリでしたとさ。
次回、四十話「やつあたれば」




