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三十八話「アッバスさんってオチかと思ったけど、流石にそれはないわよね」

「あ、ごめんね。その必要はないよ」


 声がしたのは、見計らったかの様なタイミング。


「「な」」


 敵味方関係なく声の方を見れば、ぼんやりと光る半透明の人型が、やぁと片手をあげてあたし達に挨拶する。


「こういう時、たいてい『何者だ』って聞かれるモノだと思うんだけど、そっちの人達なら、僕がどういう身の上の人かはわかるよね?」


「え、ええ」


「う、うん」


「ええと、どういうこと?」


 美形が揃って頷くのでアレクに尋ねてみると、返ってきたのはお召し物を見てくださいと言う答え。


「お召し物って……あ」


 人型の服装はいくらかの違いはあるモノの、アレク達のそれにそっくりだった。おまけに首から提げているのは、光神の聖印に他ならず。


「き、貴様、光神のぉ」


「そ、神官だった者だよ。今はここに眠ってる……ね。しっかし、まさかここに暗黒神官が入り込むなんてね」


 肉塊も人型の正体を悟ったのか、自分に生えた人達を向けて警戒を露わにするも人型の方は全く気にするそぶりすら見せず肩をすくめた。


(というか、あんこくしんかん は やめてください)


 こっちまで勘定に入っている様でどうにも居心地が悪い。いや、もう人ならざる身のようだし、最悪あたしも暗黒神官だって見抜かれてる可能性はある訳だけども。


「ま、それはそれとして。お話は聞かせて貰ったよ。それで、そっちのあなたの問いなら僕でも答えられるから、お詫びって言うとアレだけど疑問に答えさせて貰うね?」


「え、と言うことは、あの異端の姿について何かご存じなのですか?」


 ちょっと申し訳なさそうに軽く頭を下げた人型へあたしが反応するよりも早く、アレクが声を上げる。


「アレク、アレク、気持ちはわからないでもないけど、この状況であたしをさしおいて質問するってどうかと」


「す、すみません」


 なんであの暗黒神官が肉塊やってるのかはあたしも聞きたいところだし、アレクにとっては神々に仕える者として自分も知らない様なことを異端の口から知らされるかもと言う状況は我慢ならなかったとしても、あたしからすればそれはマイナスポイントだ。


「ごめんなさいね。それで、あの肉塊が人間辞めちゃった理由だけど」


「まず、『使徒』って聞いたこと有る? 知らなきゃ、そこから説明が必要なんだけど」


「し、し、し、使徒?!」


「まさか、あの伝承にある使徒のことなのぉん?!」


「アレク」


 大げさなリアクションをするヴェゴンさんとブラッドの様子からするに、たぶんアレクも知っているだろうと思い、あたしは名を呼ぶ。


「アレク? 駄目ね、固まってる……」


「まぁ、無理もないよ。僕も説明足らずになっちゃってるし」


 指で突いても何の反応も示さない美形の片方にあたしが答えてもらう期待を放棄すれば、人型は人間くさく肩をすくめた。


「じゃ、そっちのお嬢さんは知らないみたいだし、まず使徒の説明からするね? 使徒は自らの全てを代償に、人より上位の神に仕える存在となった者の事を言うんだ。ちなみに僕はただの幽霊で、使徒じゃな」


「くくく、そういうことなんです。ボクちゃんこそ暗黒神の使徒ぉ」


「じゃないよ」


「は?」


 幽霊が最後まで言い切る前に割り込んできて勝ち誇ろうとした肉塊は、幽霊に投げつけられた否定の言葉に動きを止めた。


「昔も偶に居たんだよ。自分こそは神の意図を理解した選ばれた存在だって驕って、勢いで使徒になろうとした人。追いつめられて逆転を計ろうと土壇場で使徒になろうとした暗黒神官も見たことがある。使徒になろうとすることにはリスクがあってね……失敗すると一種の罰なんだろうね、あんな風になる」


「あー」


 微妙な表情で幽霊が指さす先にいたのは、当然の様にさっき割り込んできた肉塊だった。


「まぁ、完全な失敗って訳でもないから厄介な能力を得ちゃってるけどね」


「ば、馬鹿な?! ボクちゃんが失敗?! ありえない、この身体は神に生け贄を捧げるための祭壇であり、ボクちゃんが望ん」


「あー、気づいても居なかったのかな。神の恩恵があるから完全な失敗ではなく、奇跡的に自分の望んだ力を得ることが出来たってことを」


「な」


 狼狽える肉塊の言葉を遮ったのはさっきのお返しと言うことか。可哀想なモノを見る目で幽霊に見られた肉塊は絶句する。


「さてと、ここからが本題だよ。あっちは茫然自失みたいだから丁度良いし」


「えっ」


 今のが本題じゃなかったのとあたしが続けて言う暇もなかった。


「一時的でいいからさ、お嬢さん、使徒になってみない? それでたぶん全部うまく行くから」


「はい?」


 とんでもない爆弾発言をぶつけられて、あたしは耳を疑った。目の前に失敗リスクを見せつけられての発言だったのだから。


次回、三十九話「神と怒りと悲しみの」

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