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三十五話「とつにゅう」


「アレクライダー」


 あれくらいだ、ではない。そう、今のあたしはアレクに跨って新しい力を得たのだ。ああ、視線が高い、視界が広い。だと言うのに両手は自由だ。


「何という高揚感、そして万能感。そう、あたしは、アレクライダーに……って、なるかぁぁぁぁぁぁ!」


 誰が見てもノリツッコミだと思うだろう。と言うか、それ以外のなにものでもない。アレクにおんぶされるモードが恥ずかしくて、現実逃避してみたが、どうにもならなかった。現実って本当に非情で残酷だ。先人達が心安らかに眠れる様にと設置されてるらしい神像の視線すら、そんなはずはないのに生温かなものに感じてしまう。


(敵中、推定大ボスな相手が居るであろう所に乗り込んで行くのに、走る美形におんぶされて突入するとか……)


 ビジュアル的に最悪である。今回の件が人々に知られることになった日には、おんぶされ神官とかアレクライダーとか呼ばれる様になりかねない。酷い精神攻撃だ。さすが光神官。正体ばれてないはずの暗黒神官にもきっちり容赦ないダメージをおみまいしてくれやがりまする。


「おかしいわね……突入前からダメージ受けるとか」


「はぁはぁはぁ……だ、大丈夫、お姉ちゃん?」


「っ、異端の呪術か何かということ……ですか、私は何ともありませんが」


「ふぅ、こんな真似をしでかすだけあって、油断も隙も……ないわねぇん」


 走ってて呼吸が乱れる中、あたしの呟きに反応してくれる三人の言葉が容赦なく突き刺さってくるんですが、うん。


(しまったぁっ、まともに受け取られてるぅぅぅっ?!)


 ひっじょぉぉぉぉにいたたまれなかった。まぁ、相手が相手なだけにそう言う手段もやって来かねないのだから、うっかりポロッと零したあたしのミスなんだろうけれど。


「大丈夫、あたしには構わず……先を急いで」


 これ以上気にされると状況が悪化すると思い、あたしは頭を振るも。


「っ」


「お、お姉ちゃん……」


 震える声が明らかに勘違いが解けていないことを物語る。うん、あたし しってた こうなるの。


「アレクちゃん、ブラッドちゃん、ここで奮起しなきゃ男と光神官が廃るわよぉん?」


「ええ、わかっています」


「うんっ」


 無駄に士気が上がってくれたのはよかったんですけどね。って、う゛ぇごんさん、おとこまえ すぎ。


(こう、先陣切って突っ込んでくのがおねぇってどうなのかしら?)


 悪いとは言わないが、二人程美形が同行してるのに、片やあたしのおんぶ担当(のりもの)、もう一方も後方奇襲の警戒って役割を考えると仕方ないのかも知れないけれど最後尾からついてくるだけ。


(まぁ、走り寄ってくるむきむきマッチョなおねぇとか、ある意味で凶悪極まりないけれど……迎え撃つ相手って、あの触手の可能性があるのよねー)


 闇の中からズリズリ這い出し襲ってくる触手、臆せず突っ込んで行く筋肉質のおねぇ。そのまま、あの触手を引きちぎっては投げ、引きちぎっては投げで撃退してくれる分には構わないのだが。


(わかってるのはフォース・ブリットで部位破壊が出来る強度であること、動きが意外に素早いこと、人間一人を回収出来る程力があること、ぐらいだし……)


 一本や二本なら肉体派おねぇのヴェゴンさんが勝つだろう。だがもっと数が多ければ、どうなるか。


「あたしの援護だけで大丈夫かしら?」


 こう、もっと広範囲を吹っ飛ばす様な攻撃手段が有れば良かったのだが。


(ま、言っても仕方ないわよね)


 こんな所でぼやいて何とかなったらご都合主義過ぎる。この世界が読み物だったら読者に放り出されかねない展開である。


(あたし的にはご都合主義の方が嬉しいのは間違い無いのだけど)


 世の中、そんなに甘くない。


「おか、しい、わねぇん?」


「え?」


 頭を振ったあたしは、途切れ途切れなおねぇの声にヴェゴンさんの方を見た。


「何がおかしいの? ぶっちゃけ、あたしここは初めてだからよくわからないのだけど」


「そ、そうじゃないよ、お姉ちゃん。け、けっこう、走った、けれど……異端と」


「出くわさ、ないんですよ」


「あー」


 ブラッドとアレクの補足を受けて、言われてみればと周囲を見回す。廟には何もなく、あたしがノリツッコミやらかした時にはあたしたちはもう地下墓地の中。今居るのは、三人曰く二つ目の大部屋と三つ目の大部屋の中間にある通路で、この地下墓地は三つ目の大部屋で行き止まりとなっているのだそうだ。


「これは最後の大部屋で待ち受けてるってことかしら?」


「でしょう、ね」


 お約束過ぎる流れだが、異論はないのかアレクは頷き。


「油断は禁物よぉん、隠れてやり過ごして逃げるとか、後ろから不意打ちってことも考えられるわぁん」


 あたし達の様子を見守りつつもヴェゴンさんが忠告をくれる。


「逃げる、か。そうよね……結界を解除されてしまったことが想定外なら、充分あり得るかも」


 バッシュが応援を呼びに行ったことまで気づかれていたなら、可能性は更に高くなるが、あたしの吹っ飛ばしたのが出てきたのは、結界が解除された後のこと。


「バッシュが結界に吹っ飛ばされるところからこっちを察知していたなら、結界の解除作業を阻止しようとするだろうから――」


 こっちの増援が来るかも知れない事には気づいてないと思うのだが。


「まぁ、最後の大部屋につけばわかることよぉん」


「……そう、ですね」


 会話の声を除けば吹き抜ける風の音と息づかい、石床を叩く足跡しか聞こえない通路をあたしを除く三名はは駆け続け。


「そろそろよぉん、あの奥」


 前方を見たまま走るヴェゴンさんの声が不意に途切れた。



どうしたんだ、ヴェゴン、返事をしろぉぉぉぉ!


次回、三十六話「悪夢」

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