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三十四話「聞いてないわよ、アレ!」

僅かな時間を見つけて書いた(つもり)なので、短いのはご容赦下さい。

「どうしました? 大丈夫で――」


 どことなく慌てた声が後ろから降ってきて、我に返ったあたしはああ、この状況ならそうなるかと思った。


まだへたり込んだままだったのだ。


「大丈夫、とは言い難いけど……それより聞きたいことがあるの」


 自分と同じ、いや認めたくはないけど暗黒神官のことを天敵の光神官に聞く暗黒神官はどうよとは思うものの、流石にこの事態では聞かざるをえない。


「アレク、異端って……触手とか使うの?」


「は?」


「だから、触手、触手よ! なんか、こう、赤黒くて細長いウネウネした気持ち悪いのが奥から伸びてきて、ノコノコ現れるなり口上述べ始めたからフォース・ブリッドで吹っ飛ばしたいかにも小物な異端を回収して引っ込んでいったんだけど」


 はっきり言ってあんな年齢制限がかかりそうなクリーチャーが敵側に居るとか聞いていない。


「百歩譲って、暗黒神官にお供の人外が居るとしても悪魔とかアンデッドモンスター系でしょ!」


 ないわ、あり得ないわと心の底から思う。


(え、しょくしゅ の はえた あくま の かのうせい?)


 脳内で誰かがツッコんだ気もするが、止めて欲しい。冗談抜きで触手悪魔出てきそうだから。


「触手、触手……」


「そんなの居たかしらぁん?」


「い、今まで捕まえた異端にはそーゆーのは居なかったと思うよ、お姉ちゃん」


「そ、そう……参ったわね」


 いつの間にかやって来ていたらしいヴェゴンさんやブラッドも加わって記憶を掘り起こしてくれたものの、該当する事例はないようで、あたしはため息をついた。


「せめて、過去に似た様な相手と戦った例が残ってれば、出くわした時にどんな攻撃手段をとってくるかとかがわかったのだけど」


 これではぶっつけ本番でどうにかするしかない。


「こう、うら若き乙女をあんな変態的なクリーチャーの的にする訳にはいかないから、男三名が前で盾になるのは確定として」


「「え゛」」


 何だか三人分の声がハモった気もするが、あたしはきいていない、きっと聞いていない。


「じゃあ帰る? 言っておくけど、行方不明になってる人も女の人なんでしょ?」


 その上であんなセクハラクリーチャーが敵側にいるとか、もう嫌な予感しかしないんですが、うん。


「そ、そうですね……」


 アレクがチョロ、もとい生真面目な人で良かったと思う。この分なら丸め込めそうだ。タチの悪い詐欺とかに引っかからないか不安にもなるが。


(そーゆー意味では奥さんになる人、苦労するかも……って、そう言えば――)


 あたしはアレクに好きな人がいるのかをきこうとしたことがあったのではなかったか。色々あって忘れていたけれど。


「今考える事じゃないわね」


「え?」


「何でもない、こっちの事よ」


 そう、触手という気持ち悪い存在が敵側に居ると知った今、考えるべきは被害を未然に防ぎ、廟というかたぶん地下墓地に巣くっているであろうアレクたちの言う異端をどーにかすることこと最優先課題なのだから。


「それよりも、この先の構造はわかる? 神出鬼没のウネウネとしたモノに襲われないためにも『自分が敵側ならここで仕掛けるぜ』ってポイントは前もって把握しておきたいんだけど」


「ああ……うーん、そのウネウネとしたモノのサイズにもよりますが、地下墓地の中には遺体を納める棚や眠る先人達が心安らかに眠れる様、光神様の彫像が複数飾られていますから、潜める様な物影となりますと……」


「うわぁ」


 よりどりみどりじゃないですか。


(あたし一人なら意表をついて闇に潜んで先行偵察だって出来るけど、「暗黒神官でーす」なんて言う訳にも行かないし……)


 これはもう周囲を囲みつつ警戒に警戒を重ねて進むぐらいしか思いつかない。


「もしくは敵を持ち上げて『大物なら少人数を不意打ちする様な卑怯な真似はしないよね』とか言ってみるぐらいだけど」


 暗黒神は結果を重視する。その神官ならこんな言葉で行動を縛れるとは思わない。


「卑怯? いやー、褒め言葉ですねぇ。ボクちゃん卑怯大好きなの」


 とか触手付きで返ってきたってあたしは驚かない。


「何より……異端におべっか使う作戦なんて、こっちの三人が認めないわよね」


「あらぁん、察しが良くて素敵っ」


「ごめんね、お姉ちゃん……こ、光神官としてはそれだけはやっちゃ駄目だと思うし」


 二人の影でおどおどしてるポジション的なブラッドまでこう言うのだ。最初から無理があったのだろう。


「……このまま、応援を待ちますか?」


「ううん。行方不明になってる人達が心配なんでしょ? だったら、あたしのわがままで時間を無駄になんて出来ないわ……だから、約束して。あたしのことは何があっても守るって、主に触手から」


「っ」


 我ながら酷い言葉だとは思うが、譲れないモノは譲れない。


「まぁ、女の子ならそう言うのも仕方ないかもねぇん。いいわ、日頃の修練の成果を見せる時でもあるし、触手ってのがどんなヤツかはわからないけど、きっちりおしおきしてあげましょ」


「ヴェゴンさん……」


 そして、真っ先に納得してくれたのはまさかのおねぇ系。


「はぁ……行方不明の同僚が心配というのも事実ですが、そうでしたね。情けない事です、わざわざ冗談で緊張をほぐそうとしてくださったのに、真に受けて」


「えっ、や、今のほぼ本」


「だ、だよね。お姉ちゃんの冗談、ちょっと笑えないなって思ったけど、うん」


 続くアレクの驚き発言に訂正しようとしたあたしの言葉はブラッドに遮られ。


「ふふ、話は纏まったようねぇん?」


「ええ」


「うん」


 仕切るう゛ぇごんさんに頷くアレクとブラッド。あたしは、もう置いてきぼりであった。


「突入は、光神官の異端拠点突入陣形(ふぉーめーしょん)γよぉん。敵の制圧より最深部への到達を優先、移動は駆け足、行けるわねぇん? アレクちゃんはこの娘を背負って中央、前はこっちで引き受けるわぁん。ブラッドちゃんは最後尾をお願い」


「わかりました」


「が、頑張る」


「もしもーし、あたしの意思は無視ですかー?」


 しかもアレクが背負うって言ってた気がするのは気のせいか。


「……と言う訳で、私が背負います。両手は自由になるようにしておきますので、敵と遭遇した場合はフォース・ブリッドでこちらの援護をお願いしますね?」


「えっ、あ、はい」


 なんか移動砲台の砲台代わりにされてる気もするが、これがあたしのことは何があっても守る為なら、拒否のしようもない。


「どうしてこうなった」


 空を仰いだあたしの呟きは虚しく青い空に吸い込まれて消えたのだった。



逃亡者とかの時の癖で「第」つけちゃってるのに後で気づく。修正しておかないとなぁ。


次回、三十五話「とつにゅう」


ダンジョン攻略的な何か、始まります。(たぶん)


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