三十三話「弄ったあとで」
「それじゃ、行くわよ?」
ぎゅっと手を握ったまま、あたしは確認を取る。アレク達に光神官じゃないから大丈夫とは言ったものの、きっと何処かで不安には思っていたのだろう。
(大丈夫、見る限り人影もないし、入っていきなり襲われるって事はない……筈)
そもそも、結界で光神殿の関係者が入れない様にしてるのだから、この状態で侵入者があるということは流石に想定外だと思うのだ。
「まぁ、あの光神の声を聞いちゃった騒動で名が知れて、光神以外の神に仕える神官が居るって事を覚えていられたらその限りでもないけど」
その場合、あたしがここに侵入した奴なら設定を暗黒神官以外立ち入り禁止にする。けど、それでも暗黒神官のあたしはなんなく入れる訳で。
「お、お姉ちゃん?」
「……大丈夫よ、それっ、と」
意を決して飛び込めばゲートはあたしを弾くことなく、敷かれた石の道に着地したあたしは傾ぎかけた身体のバランスを取る。力んでいたからか、ちょっと勢いを付けすぎたみたいだ。
「す、すごい……本当に入っちゃった」
「ふふん、だから言ったでしょ? そんなことより――」
「あ、うん。結界を解除するには、まずお姉ちゃんから見て右のゲートの支柱、根本に彫られてる文字を言う通りの順番でなぞって欲しいんだけど」
「これね……まずはどれ?」
驚き呆けるブラッドへ得意げに笑顔を浮かべ要求すれば、言いたいことは察して貰えたらしい。説明された石柱の根本を見れば、明らかに見知らぬ文字の帯が四列並んで取り巻いており、あたしはブラッドに指示を請う。
「え、えっとね……文字の中にうっすら光ってるのはない?」
「ちょっと待って……あ、あるわ。とは言っても、文字の読み方がわからないから説明に困るわね。アルファベッドの何とかに似てるとか説明してもわかんないでしょうし……んー」
「だ、だったらお姉ちゃん、何かに書いて見せて貰える? 入れないけどそっち側が見えない訳じゃないし」
「……そうね、ちょっと手間だけどそっちの方が早いかも知れない……か」
あたしが語彙を駆使して口で文字の形状を説明するって手段もあるが、正直表現力に自信はない。筆記用具ならこっちの言葉を学んだりするためにだいたい持参してるので、荷物から取り出して光ってる文字だけを書き出す簡単な作業だ。
「ふぅ、これでわかる?」
「あ、うん。ええっと、じゃあお姉ちゃん、これとこっちの文字部分をなぞって……あ、書き順はこう、ね?」
「こう? って、ああ、この辺感じと似てて紛らわしい……もう一回やるわね?」
あたしの書いた文字を見て実演し出すブラッドを真似しつつ、頭を掻きむしりたい気持ちを抑えつけて、お復習いをし。
「だ、大丈夫」
「そう、良かった」
何とか太鼓判を貰ったあたしを次に待ち受けているのは本番だ。
「失敗は許されない、気合いを入れないと……とりあえず、あっちから聞こえてくる『アレク、俺が悪かった』って声はスルーでいいわよね?」
「あ、うん……あはは」
大事な本番だって言うのに、アレクに何かされてるであろう勘違い男は本当に空気を読めと思う。つーか、まだ出発してなかったんかい。
「やぁん、アレクったら大胆っ。こう、女の子にはとても見せられないわぁん」
あと、う゛ぇごんさん も だまって くださいませんかね、あたし みてないので。
「ああぁぁあああああ、もうっ!」
「ひうっ」
思わずいらついて声を上げると、ブラッドが怯えた様子でへたり込む。正直済まなかったと思うが、今は謝らない。
「そんなことより、ブラッド、『問題の文字をなぞると力の供給が途絶えて、結界は自動的に解除される』のよね?」
「ふぇ? あ、う、うん……解除方法は他にもあるけど、それが一番手っ取り早いし簡単……かな。あ、ただ、柱の両方で同じ事しないと途絶えた力の供給をもう一方が補って、その間に途絶えて達からの供給が復活しちゃうから、同時にではなくて良いけど……出来るだけ早めにもう一方も同じ処置をしないと駄目かも……」
「うわぁ」
大事な施設の様だし、それだけ厳重に護りたいと思ってたんだろうけど、解除する方からするとひたすらめんどくさい。
「いいわ、時間かけても居られないでしょうし」
頼りになるアドバイザーも側にいる。あたしが、結界を解除するまでにそう時間はかからなかった。
「これで良いはず……ブラッド、こっちに来てくれる? あ、そっと、ゆっくりでいいわよ?」
「う、うん……あ」
解除出来たとは思うが、ここまで協力してくれた相手を勘違い男の様な目に遭わせるのは忍びない。念のために言い添えてショタっ子を促せば、おっかなびっくりゲートに近づいたブラッドは何事もなくゲートを通り抜け。
「問題なし、ね。ブラッド、アレクとヴェゴンさんを呼んできて貰える?」
「わ、わかったよ。ただ、気をつけてね? 結界が解除されたことに気づいた異端がここに来るかも知れないし」
「大丈夫よ。そう言う最悪の場合、独力でどうにかならないと見たらあたしもここを離れてそっちに行くから」
あたしはショタっ子にお願いすると、不安げな声での忠告に逃亡宣言で答え、送り出す。
「と言うか、むしろさっきのブラッドの危惧の方がよっぽどフラグくさ……あ゛」
そして、自分で呟き自分で凍り付く。
(まさか、じょうだん ぬき で ほんとう に ここから ふらぐ かいしゅう とかですか?)
読み物なら充分あり得る展開だ。そして、現実って客観的に見てどっちかというと悪い方に転がる気がする。
「そう、例えば――こうやって考え事をしてると」
「よくぞやって来たな光神のイヌ共め」
「とか言いながら、敵が現れるのよね。知ってた」
あたしの想像する嫌な方の未来だというのにやたらまるで本当に誰かが出てきて話している程リアルに声は聞こえ。
「やっかましいのよ、八つ当たりのフォース・ブリットぉ!」
「おばーっ!」
あたしの想像の癖に悲鳴をあげて、推定暗黒神官は吹っ飛んでいった。
「って、駄目ね。想像の敵相手に八つ当たりで本当に魔法使うとか……これじゃ、あの兄を責められないわ」
そう、アニメで好きだったキャラが殺されて絶叫したり床殴ってた兄と。
「まぁ、どっちにしてもアレク達に見られた訳じゃないし、反省して今後に生かしていけ……ば?」
結論づけて、とりあえず問題を自己解決させ、前を見ると何故か消え去らず石の道の上で伸びた不審者。
「え? 何で消滅してないの? あたしの想像の中の敵」
まさか、本当に暗黒神官だったりするのだろうか。
「や、ないない。少なくとも何人もの光神官行方不明にした奴がこんなギャグマンガみたいなやられ方で終わるとか」
そもそも、行方不明になった人だって姿形もないのだ。
「せいぜいこいつは様子を見に来た下っ端で、地下墓地の奥に本命のボスが居るとかそう言うことでしょ?」
あたし的にはこいつがボスで地下墓地の方に居なくなって人達が縛られてましためでたしめでたしでもいっこうに構わなくはあるのだ、心情部分以外は。
「いずれにしても、とりあえず、あの不審者は縛っておくべきよね?」
起こして尋問すれば情報源にはなるだろう。そう思い近寄ろうとした次の瞬間。
「え」
音にするなら、じゃっぞりぞり、だろうか。赤黒い色をした正体不明の細長いモノがのたうつ様にして石の道をこちらへ向けて這い寄り、花の様に裂けた先端が不審者へへばりつく。
「な」
あたしは慌てて身構えるも、それはこちらには一切構わず、へばりついた部分を引き伸ばす様にして不審者をくるむと、不審者を引き摺る様にして石の道を退き出す。
「しまった……っ、フォース・ブリットっ!」
「おげべっ」
こちらへの攻撃ではなく、不審者の回収が目的だったのだろう。魔法を放つが命中した不審者が悲鳴をあげ、不審者を包んでいた赤黒い何かを吹き飛ばしたものの、撤収を止めることは出来ず。
「油断……した」
貴重な情報源を奪われたあたしは、石道の上にへたり込んだ。
とりあえず、触手っぽいモノ出しておきました。
一部の人は喜んでくれるかな?
次回、第三十四話「聞いてないわよ、アレ!」
その抗議を向けられたのは、きっと作者。




