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三十二話「そして、あたしは――」

「ふぅ……」


 勝負には勝った、だがそれが全てではなかった。薬草を握り締めたまま、あたしは自分を破滅へ導くであろう地点へと向かっている。


「この分なら間もなく到着ですが……先程の様子と言い、何か気になるのですか?」


「あー、えっと……その、ね?」


 まさか暗黒神官であることがばれないかと緊張しているなんて言えるはずもない。


(かと言って黙ってると誤解を呼びかねないしなぁ)


 この手のパターンでテンプレと言えば、お花詰み、つまりトイレに行きたいのと勘違いされるパターンだろうか。そんなくだらないことを考える間も景色と時間は流れて行く。


「見えたわよぉん、あれが目的地」


 そう、気づいた頃にはおねぇなヴェゴンさんが前方の一点を指さすぐらいには。


「あれが……」


「ええ、この地の神殿で高位の神官を務めた方々の魂を祀った場所であり、こちらからはまだ見えませんが、更に奥には地下への階段があって、その先に地下墓地へがあります」


 釣られて目をとめ、言葉を失ったあたしにアレクは頷き、説明してくれるが、あたしの目に留まったのは廟本棟ではなく、手前にある石のゲートだった。


「何だか、鳥居を思い出すわね」


 形は違うが石造りのそれは明らかに敷地内に入る入り口はここですよと語っており。


「と、『とりい』?」


「あ、あたしの故郷にある宗教施設の入り口にあるゲートみたいなモノよ。ん?」


 オウム返しに尋ねてきたブラッドに説明しつつ、ふと思う。ひょっとしてあのゲートが暗黒神関係者立ち入り禁止ゲートだったりするのかと。


「あ、アレク、ひょっとして――」


「ええ、悪しき者はあのゲートの向こうには入れません。そしてゲートが無事と言うことはこの廟に行方不明者が居るという可能性が低くなった訳ですが」


 その口ぶりに少しだけ思った。ひょっとしたら、危険回避出来たの、と。


「ですが、悪しき存在に追われて負傷しつつ逃げ込んだものの怪我で動けずにいると言う可能性もありますし、一応確認しておきましょう」


「そ、そう」


 ええ、みじかい ゆめ でしたけどね。


「じゃあ、まず俺が行くか。まぁ、見とけよ? ここをくぐるにも作法があるからな」


「あ、はい」


 だから、空気を読まず先行してゲートの前で振り返り声をかけるバッシュに皮肉を返す余裕もなく。


「まず、祈りを捧げ、故人と神に伺う旨を告げ、拝礼してから中に゛っ」


「飛んだ……」


 ゲートをくぐろうとして何かに弾き飛ばされたのを見ても、弧を描いてお尻から着地するバッシュを目で追い、ポツリと呟くぐらいの反応しかできなかった。


「な、バッシュ?」


「どういう……ことだ?」


「なんでバッシュくんが……」


 だが、考えてみれば大事である。暗黒神関係者お断り結界みたいなのにあたしと違って間違いなく光神に仕える神官が弾かれたのだから。


「どういうことぉん?」


 それ は こっち が ききたいですよ、う゛ぇごんさん。 

 

「まさか、バッシュ……モテモテになるために暗黒神に魂を」


「ねぇよ! つーか、お嬢さんツッコミ担当だろ、なんで俺がツッコミに回ってんだ?!」


「いやぁ、なんとなく、つい」


 空気読まないところにイラッとしたから何て事はきっとない。


「そんな些細なことより、ゲートの異変の方が問題でしょう? どうしてこうなったか、誰かわかる?」


 棚ぼたで暗黒神官だってバレる機会が消滅した様だが、手放しで喜べない事態なのは明らかだ。だが、当然ながら部外者のあたしに目の前で起きた現象を解明出来る自身はない。そもそも、光神神殿関係者がこうもいるんだから、あたしの出る幕なんて無いと思うけど。


「ああ、それでしたら……おそらく。ブラッド?」


「うん。……結界の作用が逆に働く様に弄られてる」


「はい?」


 話を振られ、屈み込んで何か調べていたショタっ子もといブラッドの言に思わず声を上げた。


「なにそれ? そんなこと出来るの?」


 聞き返すあたしの顔がひきつるのも無理はないと思う。もし、いの一番にあたしがくぐって、その後アレク達が弾かれていたら結果として暗黒神官バレするのはおなじだったのだ。そんなこと出来るなら先に説明しておいてよって思ったあたしはきっと悪くない。


「うーん、い、一定以上の加護のある神官なら……準備をすれば可能だと思うけど」


「思うけど?」


「その、不思議なんだ……結界の仕様を変更するには結界の内側に入って弄らなきゃ行けないから、異端の人間には不可能だし……」


「ちょ」


 なんだか ものすごく ふおんな はなし の ながれ に なって きたんですけど。


「何それ、じゃあどうやったっていうのぉ?」


 くねくねすんなう゛ぇごんさん。


「じゃなくて、だとすると一つ、思いついたことがあるのだけど」


「思いついたこと、ですか?」


「そう」


 これはすっごく嫌な想定だ。


「行方不明になった神官は複数なのよね? だったら、その片方を捕まえて人質にした上で、もう一方に『結界の中に入って設定を弄れ』って脅迫したら?」


「なっ」


「っ」


 アレクとバッシュが険しい顔をするが、これなら辻褄は合うのだ。


「そして完成した光神の関係者は入れない場所、アジトにはもってこい……よね。バッシュが弾かれるまでみんな異変には気づいてなかった訳だし。神殿関係者がこの廟の手入れをしてるなら、欺けるのは僅かな間になると思うけど……」


「いや、手はある。お嬢さんが言ってた脅迫ってやつだ。この結界、内部に入られちまったら意味がない。本来管理してる奴が結界の内側に居る時に設定を弄った上で、人質を縦に『外には出ずこれまで通り廟の手入れをしろ』って要求しときゃ時間稼ぎは出来るからな」


「で、時間を稼いでる内に何かしらやらかす準備をしてるとか、ここを完全なアジトにすべく動いてるとかかしらね」


「「おそらくは」」


 ロクでもなさ過ぎる未来予想図に声をハモらせる光神官ズ。顔が厳しいのは、予想される展開についてもあるだろうが、何より自分達ではどうにも出来ない状況が目の前に転がっているからであろう。


「はぁ、仕方ないわね……」


「お姉ちゃん?」


 訝しんでブラッドが声をかけてくるが、あたしは覚悟を決めていた。ここで躊躇って誰かが死んだら寝覚めが悪い。


「聞いたところ光神官お断り結界になってるんでしょ? だったら、あたしは通れるはず……別に光神官じゃないし」


「「あっ」」


「ただ、結界の解除方法がわからないから教えて貰わないと行けないけれどね?」


「か、解除? 解除なの?」


「そ。こういうのって一度解除してしまうと再稼働に時間がかかるのがセオリーだと思うのよ、あたしが本で見た話とかだと。だけど、設定弄くるのは展開したままでもOKみたいだし、ひょっとしたら手順がわかれば時間はかからないのかなって。隠れてあたし達をやり過ごした異端がもう一度設定を弄る様なことがあったら廟の中であたし達は孤立する、だけど」


「成る程、誰かに応援を呼びに行って貰い、結界を解除した上で突入すればこちらは増援が見込めますね」


「そういうこと。これだけ小細工をする相手なんだから、こっちも出来るだけ全力でぶつかる必要があるわ」


 実際の所、元に戻すとあたしも弾かれる仕様の結界になってしまうからなんて理由を誤魔化しつつ、説明すれば、表向きの理由をすんなり理解してくれたアレクはすぐに賛成してくれた。もっとも、それで終わりではない。


「問題は……誰が戻るか、ですね」


「そうねぇん。応援をゾロゾロ連れてきて貰うなら美形三人の内の誰かが良いと思うのだけどぉん」


「戦闘面の実力では三人とも同じくらいだったわよね?」


「まぁ、な。俺はどっちかって言うと武器持った殴り合いが得意で、アレクは器用貧乏、ブラッドは治癒とかゲートみたいなのの調整が得意って感じだけどな」


「バッシュ、後で話があります……いいですね?」


 相談を始め、顔をつきあわせる中でバッシュが説明してくれれば、あたしは決めた。アレクが微妙におこだがそこは気づかなかったことにして。


「じゃ、バッシュが応援呼んでくるってことで良いわね。前衛はヴェゴンさん居るし」


「ちょ」


 勘違いだし、空気も読まないから丁度良い。


「じゃ、行ってらっしゃい」


 扱いが酷いとか言われても知らない。あたしにはまだやることがあるのだ。


「さてと、ブラッド。結界の弄りかた教えて?」


「う、うん」


「ありがと、とりあえずこっちに――」


 帰る予定の誰かが騒いでいてもあたしはスルーし、ブラッドに向き直るとその手をとって結界に弾かれない


ギリギリの距離までゲート近くへ連れて行くのだった。


さようなら、バッシュ。


行方不明事件の手がかり発見か?


そして、主人公は暗黒神官とばれずに事件を解決出来るのか?


次回、第三十三話「弄ったあとで」



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