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二十八話「なによ、それ」


「行方……不明?」


 あたしが自分の甘さを知ったのは、光神殿を訪れた次の日の朝。目に隈を作った顔であたしは知らされたのだ、一人の神官が姿を消したと。


「ええ。同僚の話では、勤めを終えいつものように帰路に着いたらしいのですが……」


 いつもならとうに神殿を訪れる時刻になっても出勤せず、家を訪ねれば留守。


「問題の神官と仲の良かった同僚は、話を聞くまで留守ではなく一足先に神殿(こちら)に着ていると思っていたそうです」


「実際はそうじゃなかったってことね?」


「その通りです。朝、出勤途中で何かあったのかそれとも昨日の帰宅時に何かあったのかもまだわかっていなくて」


 遙かに危険な存在のことをあたしから聞かされていた神官長は、この行方不明事件を重く見た。


「あなたを生け贄にする為掠おうとした者達が居たのですから、奴らが性懲りもなく邪神への貢ぎ物を求め行動したとしても不思議はありません」


 もし本当に暗黒神官による誘拐事件だとしたら、前回の失敗を踏まえて、もしくはあたしが注目されるようになって狙いにくくなったので妥協したと言うことだろうか。


(信じがたい大ポカだわ)


 自分のことで頭がいっぱいだったとは言え、他者が狙われる可能性に気づかなかったなんて。


(あたしが狙われにくくなったんならしわ寄せが何処かに行くことぐらい、気づいて警告しておくべきだったのに)


 むろん、ただの家出とか駆け落ちとか全く無関係の可能性もある。だが、タイミング的にもそうは思えなかった。


(誰も犠牲にならないようにって打ち明けたのに)


 最悪、もう犠牲者は出てしまったかもしれないのだ。


「っ」


 いつの間にか握り込んでいた手が震え、爪が掌に食い込む。今すぐにでも走り出したかった。


(わかってる、わかってるけど)


 じっとしていられない。ひょっとして今行動すれば助けられるんじゃないかとか心の何処かで思ってしまって、平静ではいられなかった。


「アレク――」


 だと言うのに、足が一歩も進まないのは、あたしの手を握りこの場に止める男性(ひと)が居たから。


「っ」


「駄目ですよ、考えてることはわかります。ですが」


 放してと言うよりも早く、あたしの手を引き抱き寄せたアレクは、頭を振る。


「これは私のミスです」


「ちょっ」


「あなたは責任を感じていらっしゃるかも知れませんが、行方不明になっているのは光神官。所属はこの神殿です。しかも、あなたにはわざわざ危険な者が存在すると忠告まで頂いていたのです」


 これでみすみす同僚を掠われてしまったなら落ち度は光神殿側にあるとアレクは言いたいのだろう。


「けどっ」


 だからといって「じゃああたしに落ち度はないのね、ラッキー」などと言えるような神経は持ち合わせていない。だから、食い下がろうとして――。


「ですから、私は彼女を探しに行きます。もちろん、単独行動などしたら二次被害が出るかも知れませんし、一緒に誰か行動してくれるとありがたいんですけどね?」


「アレ……ク?」


 呆然とするあたしを前に茶目っ気たっぷりの笑顔を見せたのは本当にアレクなのか。


(……こんなアレク初めて見たわ)


「どうせ止めても行く気でしょう? でしたらせめて目の届くところにいてください」


 気のせいか、いつもよりフレンドリーに。


(好感度が上がった恋愛ゲームのキャラみたいに距離が縮まった気がするのはきっとあたしの気のせいよね)


 アレクの変化に戸惑い、目を合わせられなくてあたしは視線を彷徨わせ。


「あ」


「どうしました?」


「ううん、なんでもないわ」


 アレクがあたし以上に強く拳を握り込んでいたことに気がついたのは、単なる偶然。


(そっか、無理して明るく振る舞ってるのね)


 他の神官と比べれば頭一つ抜けて真面目な印象があったアレク。さっきの笑顔はあたしが気負わないように作ったものだったのだ。


(ひょっとしたら、あたし以上に飛び出したかったのかも)


 にもかかわらず此処にいるのは、たぶん待っていたのだ、あたしが独断行動しないように。


「では、神官長様に許可をいただきに参りましょう」


「そうね、手間をとらせてごめんなさい。許可を貰って、さっさと出発しましょ」


 目立ちたくはないし、危険な目には遭いたくない。ならばとるべきでない行動をとってしまうあたしは度し難いのかもしれない。けど、この時のあたしは自重出来なかった。


罪悪感から自己保身を捨て感情のままに動き出す主人公。

そして、神が警告した「遙かに危険な存在」は暗躍を開始する。


消えた女神官の行方は?


続きます


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