二十七話「やっちまったぜ、おやっさん」
「はぁ、はぁ……ぐっ」
赤く染まった脇腹を押さえ、男は顔を歪めて路上に横たわる。転々と続く漏れ出た命の赤は追っ手共に己の居場所を教えていることだろう。
「なんでっ、こんな……ことに、なっち……まった、かなぁ」
後悔を滲ませた男の瞳には、月と星空が映る。
(そう。何て言うか。それが今のあたしの心境風景なのよね)
ちゅうもくされているのに、かおをあかくしながらあれくとてをつないでしんでんないをゆくとかあたしはばかですか。
「ああああ゛あぁぁうぁっぁぁああぁぁあーっ」
それでアレクのファンから嫉妬されたあげく、馴れ馴れしいとか罵られたりして引き離されるならまだ良かった。
(「貴女ならアレク様を任せられる」って何?! 「おめでとう、お幸せに」って何で色々過程すっ飛ばしたあげく祝福モード?!)
光神様の声を聞き名指しで言及されたと言うのが一人歩きした結果、あたしは妙な誤解というか勘違いをされたっぽい。
「二人揃って名指しにされたのにも意味があるのでは?」
「では、もしや――」
一部の暴走した神官さん達は曲解を重ねた。
「あたしとアレクは光神様公認カップル」
なんだそうですよ、いやーまいったねこれ。
「何それ、超展開にも程があるわよね? まさか本気じゃ」
無いでしょうねとまであたしは言えなかった。最後まで言う前に振ってきたのだ。おめでとうという祝福が。
「ちなみにあれくのごりょうしんにまでこのはなしはつたわっておーけーまででてるそうですよ」
もうどうしたらいいかわからなくて。帰宅後、あたしはでっち上げた神様の像と向き合って語りかけていた。
(違うタイプの美形が何人もいたからひょっとして此処は乙女ゲーの世界何じゃって思ったこともあったけれど)
ないわー、流石にこんな展開の乙女ゲーあったらくそゲー認定は免れまい。
「まさか、こういう形でピンチがやってくるなんて……」
アレクのことは嫌いではない。が、此方はばれたら火あぶりの身の上、お付き合いとか結婚以前にこの国に永住という時点でまず不可能だというのに。
「どうしよう、ここで逃げ出すというのも危険すぎるのよね」
神様の警告にあった遙かに危険な存在のことを考えると、神殿の庇護を自分から捨てるなど襲ってくださいと言ってるようなものだ。
(かと言って、座して待ったらなし崩しにアレクとお付き合いと言うことになるだろうし)
そうなってしまえば、この国を抜け出すのが遙かに困難になる。
(一応布教の旅とか理由をつけて出奔することは出来ると思うけれど、その場合、アレクは絶対に着いてくるわよね)
ゲームの中の「後で裏切るとわかってるNPC」なら地形やモンスターを使って同行中に謀殺したこともあるあたしだが、いくら身バレすると敵対の可能性があるからってアレクに同じことが出来る外道ではない。
(途中で振るってのも至難よね)
神様の後押しがあって結ばれたカップルと思われている以上、一度結ばれれば神官であるアレクは別れられない。
(まわりも許さないでしょうし、流石に心中END的なモノはないと思いたいけれど)
BADEND、後味の悪いモノになるのはほぼ確定だ。
(いっそのこと危険を承知で「遙かに危険なモノ」にどうにかされたことにして姿を消すとか――も駄目そうよね。アレクの性格考えると責任とか感じそうだし)
八方ふさがりだった。
(困った時の神頼みとは言うけれど、ね)
最初は光神様に頼ることも考えたのだが、頼った結果が現状なのだ。
(あとは暗黒神様だけ、か)
一応、あたしとて神官として自分の神様は信じている。
(けど、あたしって暗黒神様がこの世界を見限るかの判断基準だものね)
ただ、安易に頼りすぎてはそれこそ本物の暗黒神様はこの世界を見限って帰ってしまうのではという危惧があたしにはあった。
(試されてる、ような気もするのよ)
この日、あたしは殆ど眠れなかった。寝たら、暗黒神様に会ってしまう気がして。
ようやく「恋愛?」タグが詐欺にならない流れに出来そうで、ちょっと一安心。
アレクと主人公、二人はこの後結ばれてしまうのか、それとも?
続きます。




