二十二話『けど、明日後悔することになるなら』
「……あの三人が小者、ですか」
「そうよ。小者に翻弄されてたなんてことが発覚すれば、それはそれで騒ぎになるでしょう?」
あの晩、アレクに『交信』の内容を明かさなかった理由をあたしはそう説明した。
(はぁ)
ぶっちゃけ、昨日の今日でアレクの顔を見るのはキツイ。恥ずかしい、帰りたい。
「うわーん、もうおうちかえるぅ」
とかあたしの中の残念な部分が精神ダメージで幼児退行にまで至っているものの、これだけは伝えておかないといけないと思った。
(あの三人を捕まえたことで安心して「はるかに危険な者」ってのを光神殿が見逃すことになったら……)
暗黒神様がわざわざ警告してくれる程に危険な相手なのだ。あたしの想像を絶する大惨事が起こってもおかしくはない。
(あたしはまだ知らないのよ)
ゲームや小説などフィクションだから、それでも描写によっては不快になるカタストロフ。だが、ファンタジー全開のこの世界であれば現実になったって不思議とは思わない。
(もし、大きな被害が出て、それがあたしの個人的な気持ちさえなければ、あたしが伝えていれば防げたものだったと言うことになれば)
この世界の人と比べて脆すぎるあたしの精神では耐えきれないだろう。罪の意識と後悔で潰れるという後ろ向きな自信だけはあった。
(そも、お話何かだとこういう時躊躇って大失敗するのよ)
先人の轍は踏みたくない、行く先が失敗と後悔と悲劇にしか続いていないものなら。
「うーん、言われてみれば引っかかる点もありますね」
(と、なると「はるかに危険な者」も伝えておくべきか、よね)
知らされた事実を咀嚼するアレクに背を向け、あたしは考える。危険とは聞いているが、それ以上の情報がないのが悩みどころなのだ。
(下手に警戒してへまをやったり、藪を突いて蛇を出す結果にもなりかねないし)
そこを踏まえてアレクに相談するというのも手ではある。あたしが暗黒神官であると知ったらまず敵対関係になるであろう相手だが、現状信頼出来る相手ではあるし、頭も良い。
(三人揃えば文殊の知恵、というには一人足りないけれど一人で悩むよりよっぽどマシだわ)
毒を食らわば皿まで、なんて諺もある。
(安易にアレクに頼りすぎるのは、いつか一人でやって行くことになることを考えると良くないのはわかってる、だけど)
結局の所、あたしは弱い。もし躊躇して救えたはずの誰かが酷い目にあったらどうするという理由の言い訳をして、安易な方に流れてしまうぐらいには。
「それと、もう一つあるのよ」
「もう一つ?」
「ええ。強いて言うならこっちの方が問題ね」
結局、あたしははるかに危険な者が存在することと、アレクや光神殿側に伝えた場合起こりうる懸念事項の両方を話した。
「別の神様を信仰する神官として、アレク達に頼りすぎるのは崇める神様にも申し訳ないことだし、あたし自身の為にもならないかもって思いはした」
けど躊躇ったせいで何か起きたらと思うと、黙っても居られなかったとも明かした。
「それで今でもまだ悩んでるのよ。心の何処かで、話してしまって良かったのかって」
アレクはあたしが話し終えるまでほぼ無言だった。聞き上手だったのは慣れがあったのかもしれない、懺悔とか神官という職業柄聞くことも多いだろうし。
「被害者が出るのが耐えられないという想いは、尊いモノだと思いますよ」
アレクの一言で気が楽になったのは確かだった。
「成長経験を得る場を失ってしまったというのでしたら安心してください。私がみっちりしごいてあげますから」
「え゛」
そして、直後に知ることになった。自分が地獄の入り口のドアを開けてしまったことを。
「私を信じて打ち明けてくださったお礼です。心を食人鬼にして、立派な神官として独り立ち出来るお手伝いを――」
どっちにころんでもあたしはこうかいするってことですね、そうですか。
「では一緒に奥へ行きましょう。先程のことを報告する必要もありますし、たぶんこの時間なら同僚達が中庭で精神鍛錬を積んでいるはずです。報告の後はそちらへ」
「ふふふ、ふふふふふ……」
かわいた笑いを顔に貼り付け、アレクに引っ張られるあたしは忘れていた。光神殿で光神様が『交信』の感想かコメントをくれるだろうと言う暗黒神様の言葉を。
チキンすぎて舌禍を招いてしまった主人公。
現代人にアレクの修行とは耐えうることが出来るのか?
そも、「はるかに危険な者」とは?
続きます。




