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二十話『ハイテンション時の突拍子もない行動、鏡に映ったそれをあたしは黒歴史と呼ぶの』


「……ふぅ」


 ランナーズハイって言葉があったと思う。ついさっきまでのあたしはそれに近いものがあった。が、それは別にどうでもいいのだ、高まったテンションがやり場を求めて謎の暴走という形で醜態になっても。ただし、誰も見ていないなら――。


(ギターが弾けたら良かったのに)


 そう、そしてこの場にギターがあったなら。全てを無かったことにしてギターをかき鳴らしながら歩き出す。視線は遠く、弾き語りのメロディーと歌声が届いて欲しい場所へ向けながら思いを込めて歌うのだ。まるで物語の冒頭でサーガを語る吟遊詩人か何かのように。


(ごまかしたいとうひしたいときよとまれというかもどれわすれろわすれろわすれてわすれてっていうかあれくそんなかおでこっちみんなこっちみるなったらぁぁぁぁぁ)


「あの……」


 一度我に返ってしまったあたしには再び現実逃避出来るような空想の翼はない。それ以前に腫れ物に触るかと言った感じでおずおずと向けられたアレクの声が否応なく対応を迫ってくる。


「っ」


 何らリアクションを起こさなければならないのだろうが、今のあたしはホラー映画の後ろが気になるけれど怖くて振り向けない人と全てを分かり合えるぐらいに振り向けない。


「いっそ、この場でアレクを殴り倒して全ては気のせいだったと言うことに」


 なんて悪魔の囁きを蹴り飛ばせない程に、あたしは進退窮まっていた。ホンの数秒だというのにまるで三ヶ月ぐらい何もせずに立っていたかと思えるほど時間の流れが遅い。


「あ、あのねアレ」


 体中の勇気と気力を総動員し、あたしがアレクに声をかけようとするまでに実際はどれほど時間が流れていたのか、知らないし聞きたくもない。目撃者は一人でも充分だった。もっとも、居たなら居たで縋っていたかも知れない。


「まさか、この目で見られるとは……」


 あたしが声をかけようとしたアレクは瞳を潤ませて真っ直ぐ此方を見ていたのだから。



「『交信』ですか?」


「はい。遙か昔、あなたと同郷の方が神々から重要な言葉を賜る時、傍目には気が触れたとしか思えない奇怪な動きをされたのですが……」


 その同郷の方とやらは我に返った直後、当時の人々へ神から預かったといういくつもの言葉を伝えたのだという。


「その一つに従ったところ病気になる者が激減したのです」


 最初は気が狂ったのではと思った者も居たそうなのだが、神の言葉が人々に恩恵をもたらす事が確認されると異世界人の言を疑う者は居なくなり、「交信」という言葉と共に代々語り継がれてきたのだとか。


(それってあたしみたいにやらかしちゃったすがたをみられてそのうちつたえようとおもっていたげんだいちしきをつかってごまかしただけなんじゃ)


 古代の神官や巫女が炊き込めたお香などを吸い込んでトリップし予言とかお告げを国民に告げていた、なんて話をあたしも何処かで読んだことがある。自分の奇行もそういうものの一種だよとかってアレクが話してくれた自称自宅警備員さんは誤魔化したらしい。


「その『交信』の瞬間を見ることが出来るとは」


(あるぇ、これってひょっとして)


 つまるところ、アレクはあたしのの暴走をその『交信』と見たのだろう。あたしには光神神殿で光神に語りかけられるという前科もあったのだから。


(どーすんのよ、これ。正直に打ち明けるべき?)


 それはそれで恥ずかしい。しかも、場合によっては偉人になっている先人の嘘まで曝きかねない。


(かといって神様からの言葉として話せる内容なんて……)


 本物の暗黒神様から教えてもらった諸々は一部について口外無用と念を押されているし、内容に関しても「あなた方が崇めてる神はとっくにこの世界を見限ってますよ」というどう考えても知らない方が幸せな内容だ。だから、あたしはこう言った。


「残念だけれど、口止めをされているの」


 と。嘘を上手くつくには真実を混ぜることと何処かで誰かが言っていたと思う。そもそも、この言い方なら嘘にもならない。


「『交信』でないことを誤魔化す為に神様との会話の内容を話そうかと思ったのだけれど、口止めされているから話せないの」


 省略せずにきちんと言ったなら、あたしの答えはそうなる。「交信」の中身だとは一言も言わないことでアレクに誤解してもらおうという訳だ。もし、嘘を見破るような能力や道具があったとしても、大丈夫なはずだ。質問内容を変えてきたり、言い逃れが出来ない質問を突きつけてこない限りは。


(ここで誤解を解いておいた方が良い気もするけれど)


 それをしたらあたしがはずかしさできえたくなる。もちろん、そのうちこの国から逃げ出すつもりではあるから去り際に置き手紙で暴露するという手もある。


(「旅の恥はかきすて」ね)


 何にしても今の最優先事項はこの場を乗り切ることだ。


「とりあえず、時間も時間だから今日は休みたいのだけれど」


 アレクが神殿前に居るということは何らかの用事で尋ねてきた可能性もある。


「あぁ、貴方からすれば微妙なものかもしれませんけどね」


 用件があるのかと尋ねてみれば、アレクは荷物から一本の筒を取り出して封を切った。


「暗黒神官捕縛の件で我が光神殿からあなたに送られた感謝状と、金一封です」


「あぁ、そう言えば」


 あたしはギルドでの話しを思い出し、納得する。捕まえた暗黒神官達は、アレクの同僚をさんざん翻弄したと言う相手なのだ。


「大々的に表彰しても良かったのですが、あなたは別の神を崇めている神官ですので」


「あー、メンツとかそういうことね」


「えぇ、あとまた光神神殿に足を運んで頂いて、先日のようなことがあっては騒動になりますし」


「う゛っ、確かにないとは言いきれないわね」


 表彰式典中に直接光神様からのお言葉。表向き聞こえてないふりだって二度目だから可能かも知れないが、あたし以外にも同時に語りかけるとか言うパターンだとしたら。


「もう遅いですから明日にするか迷ったんですけどね」


 それでも足を運んだのは、あたしを呼んで表彰する派が独断専行しない為の措置らしい。運び手にアレクが選ばれた理由は言うまでもない、あたしと一番親しいと思われてるからだろう。


「『光栄です』と伝えておいてもらえるかしら? それと『お心遣いに感謝します』とも」


 微妙に嫌な予感を感じつつも肉体疲労と精神疲労の重なったあたしの身体に長話する余裕はなく、アレクにそう伝言を託してお引き取り願った数分後、あたしは自室のベッドに沈んだのだった。



お待たせしました。


黒歴史って怖いですよね。


続きます。


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