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二話『説明を要求するわ』

「何よ、これ……」


 あたしにとってファンタジーはなじみ深いものだった。男兄弟の影響で家庭用ゲーム機のゲームやライトノベルは一通りたしなんでいたし、友人にもその手のものにどっぷり填っている子が数人いたから、ある日突然異世界に――なんて話もうちの本棚やCDラックの中に幾つかある。


(だからって、リアル異世界トリップとか冗談じゃないわよ)


 気がつけば薄暗い森の中。植物には詳しくないけれど、自宅の周りでは少なくとも見たこと無い葉っぱや幹をした木々が周囲をいっそう暗くしていた。


「しかも、悪い方から数えた方が良いケースじゃないのよぉ」


 身体に違和感はないものの、特別な力も感じず、聞こえるのは鳥の鳴き声と風が梢を揺らす音ぐらい。


(そりゃ、異世界につくなり捕まって奴隷とか出会った化け物に殺されるよりはマシだけど)


 森の中に独りぼっち。モンスターとかが跋扈しているような場所かどうかは解らないが、視界の中の森は肉食の野生動物がひょっこり顔を出してもおかしくはなさそうに見える。


(近くに街でもあればいいけれど、こうも自然豊かじゃ望み薄よね)


 どんどんネガティブになってゆくのは、あたしのせいじゃないと思いたい。


(木の上に登って遠くを見るにも、スカートだし)


 学生服のスカートがとたんに恨めしくなる。もっとも、今履いているのがジーンズや動きやすいパンツだったとして本当に登ったかどうかは定かじゃない。こう自然豊かな森だと、生き物も豊富だろうから。


(可愛いリスとかならともかく、毒蛇とかに出られたら悪くすればジ・エンド)


 樹木自体がモンスターで近寄ったら食べられるなんて展開は敢えて考えないでおく。


「ただの遭難なら動かない方が良いんだろうけど」


 待ったところで、助けが来るとも思えなかった。


「ならば、行動あるのみよ。やらなくて後悔するよりして後悔した方がマシとも言うし……とはいうものの、ん?」


 ぎゅっとこぶしを握り周囲を見回したあたしの目に飛び込んできたのは、一本の枝。


「かぶれたりしないわよね?」


 藪をつついて蛇を出すとも言うけど、薄暗い森の中を歩くなら手ぶらは何とも心許ない。枝は、茂みをかき分けるにも丁度良い長さだったし、直接触りたくないようなものに対処する意味でも持っておきたかった。


(武器にはならないでしょうけど)


 軽く振って風切り音を鳴らすと、兄が小さい頃似たような枝を持ってはしゃいでいたのを思い出す。


(男の子にとっては木の枝も伝説の剣なのかしらね。って、いけないいけない)


 回想に浸っているような場合じゃない。


(それこそお話なら、敵に追われたお姫様とか美形の騎士様なりが逃げてくるのに遭遇するとか、通りかかった猟師に保護されるなんて「あんたらの運の数値はおかしい」とかいいたくなるようなお約束的展開に出くわすかもしれない)


 だが、現実というのはたいてい非情だ。


「森を彷徨ったあげく飢えて倒れる、出くわした肉食獣に食べられる、足を踏み外して崖から落ちる」


 あげればきりがない。


(運良く人に出会えたと思ったら相手が山賊、っていうのもあるわよね)


 このパターンのその後については考えたくもない。


(そりゃ、あたしは運動部所属って訳でもないけど)


 歩けば疲労はたまり、疲れるほどにテンションはさがる。マラソン大会の後の帰り道なら家に戻ればゆっくり休めるから空元気で一時的にハイテンションにもなれるが、見たこともない木々の中を野生動物との遭遇に怯えつつ進む今の私にとって、安心出来る要素はゼロ。


「ふあんになるようそならありますよ? ひがかたむきはじめたのか、おそらがくらくなってきています」


 おもわず平仮名で独り言を漏らしてしまうほどに、私の心は絶望色だった。夜になれば、文明人の私は数歩先どころか足下も見えなくなるだろう。そうなる前に明かりを確保しなくてはならないが、生憎火をおこす道具など何も持っていない。


(板きれで火をおこすには弓みたいなのが居るのよね)


 うろ覚えの知識で、火を熾せるだろうか。


(弓みたいなのを作るには、糸がいるわね)


 思いついたのは、制服をほつれさせて作るか、蔦のようなものを探してきて代用するぐらい。校則の関係で、あたしの髪はそんなに長くないし、最初から選択肢に入れてない。


「って、そもそも木の板がないじゃないのよーっ!」


 二つめの問題点に気づいて投げ出したくなったあたしは。


「ぅん、あれは……」


 遠くに揺れる小さな点に気づいた。


(運の数値がどうこういってごめんなさいっ)


 心の中で謝り見つめるそれの名前は、火。あたしがつくるのを投げだしかけたものだった。


と言う訳で、今回は回想編その1でした。

次はこの後編となります。


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