十九話『後先見ずに暴走した結果ってたいていろくでもないわよね』
「凄いじゃないですか。聞きましたよ?」
暗黒神官を三人も打ち倒して捕らえたそうですね、と笑顔を浮かべている受付嬢はきっと褒めてくれているのだろう。
「え、えぇ」
だが褒められたあたしの方は微妙に視線を泳がせて、ギルドの天井に染みが無いかを探していた。
「さすが冒険者ギルド、情報早ッ」
とか素直に驚けていたらどれだけ良かったことか。
「普通、異端の討伐は最低でも衛兵数名に神官様がついて行われるんですよ? なのに暗黒神官なんて大物を三人も、しかも単独で捕まえるなんて」
そう、馬鹿三人をフォース・ブリッドで昏倒させて衛兵に突き出しただけのことが、実は割と大事になっていたのだ。
この国で暗黒神信仰なんて出来るのはよっぽどの馬鹿か、捕まらずに済むだけの才覚がある実力者であり、あの三人は『闇潜り』で光神の神官様達をさんざん翻弄した後者だったらしい。
「きっと近いうちに国王陛下からお声がかかって、名誉称号とか頂けると思いますよ。羨ましいなぁ」
そっとくらしてそのうちふぇーどあうとするよていだったのに、おもいっきりわるめだちしますね、ありがとうございます。
(あぁぁああああぁぁぁっ、逃げ辛くなったぁぁぁぁ)
後悔先に立たず。降りかかる火の粉を払っただけなのに、どうしてこうなった。
(ま、まぁ爵位とかついてこなかっただけマシと思うしかないわね。名誉称号授与とかもこのお姉さんの予想に過ぎない訳だし)
もちろん、楽観視出来るような状況でないことは重々承知している。油断して足をすくわれるつもりはない。
「うむ、ひとまずおめでとうと言っておこうッ」
「あ、ありがと……」
良い笑顔でサムズアップするアッバスさんにお礼を言ったあたしは精神的疲労を引き摺りつつもくるりと向きを変え、ギルドの入り口の方へと――。
「って、依頼の報告忘れてたーッ!」
こんなじょうきょうだもの、しかたないよね?
「ふふっ、凄いことだし、浮かれて忘れるのも仕方ないと思いますけどね」
どちらかというと、あたまをかかえたくてしかたありませんが。
「と、とにかく……これが依頼書よ」
ギルドに来た他の人に聞かれて話が広まったら更に拙い。せめてこれ以上傷を広げるまいとあたしは依頼者のサインが入った依頼書を受付嬢の前に突き出すと報酬を受け取ってそのまま神殿へ戻ることにした。
(買い物は明日でいいわ)
流石に商店街とかで噂になっては居ないと思いたいが、人前に顔を出す気力をごっそりと削られてしまっていたのだ。
「じゃあね、アッバスさん」
「うむッ」
だからあたしは、この時犯した致命的なミスに気づくことなく一人帰路に着いてしまった。
(隠したい秘密があるのに人から注目を浴びるハメになりそうとか、あたしが一体何したって言うのよ)
あんなのとお仲間とか認めたくないものの、同じ暗黒神を信仰する者を刑死に追いやるからだろうか。
(フラグは叩き折って安全第一で居るはずなのに)
お前は巻き込まれ系主人公だとか言わんがばかりに厄介ごとが押し寄せてくる気がする。
(……ふて寝よ、ふて寝。もうそれしかないわ)
無性にベッドが恋しかった。ここが元の世界なら、家族に弱音を吐いたかもしれない。
(せめて、全てを打ち明けられる人が居ればいいのに)
同じ暗黒神官は襲いかかってきて今は牢にいる馬鹿だけ、他の人にはあたしが暗黒神官であることを打ち明けられる筈もなく、例外的に愚痴を聞いてくれる相手が居るとすれば夢の中だけ。
ベッドが恋しいのは、夢で暗黒神様に会いたいというのもあるのだと思う。
「ふふふ。べっどー、べっどー、ベッドがあたしを待っているぅぅ、ららららぁ~」
変な歌が口から出た。
「先生、娘の容態は?」
「残念ですが、我々にはもう手の施しようが……」
脳内で医者がさじを投げるシーンが展開された。もちろん、この娘というのはあたしのことだ。うん、疲れてるのよ。
「お酒とか飲めたらいいのに。ふふふ、もちろん法律は遵守する良い子だから二十歳になるまでは飲まないわよ? 言ってみただけ、言ってみただけぇ~」
つかれるとひとってひとりごとがふえませんか、あたしはふえます。
「あぁ、あたしがいつものあたしじゃない……そう、今のあたしはお疲れを越えた超お疲れ、スーパーお疲れあたしなのですっ!」
てんしょんがおかしいですって、しかたないですよ。ねぇ、しかたないってうなずいてよ。
「もー、スーパーなんだから必殺技とか考えちゃうぞー? 年甲斐もなくはっちゃけちゃうぞー?」
もう、誰に言っているのかあたしにも解らない。
「よーし、じゃあ一個目は、すーぱーあたし・インフォメイション・きー」
ただ、あたしの必殺技はとりあえず完成しなかった。
「え」
最後まで言い終える前に聴覚が捕らえた声には聞き覚えがあって。
「あ」
恐る恐る声の方に首から上だけ向けたあたしが目撃したのは、信じられないようなものを見た顔で固まっているアレクの姿だった。
だれにでもほうむりさりたいくろれきしってあるとおもうんです。
つづきます。




