十八話『事情聴取なう、とでも言えば良いかしら』
「なるほど、それで貴女は叫んだ訳ですな」
「ええ」
衛兵を呼んだのはあたし、とは言ってもこんなに詳しく根掘り葉掘り聞かれることになるのは予想外だった。
「奇跡を起こせる暗黒神官相手に神官とはいえ女の子一人が勝てるとかおかしい」
と言う理由で語ったことを疑われ、フォース・ブリッドの早撃ちまで見せてようやく信用され、今は事件の詳細を衛兵の詰め所で説明しているという訳だ。ちなみにあたしが返り討ちにした暗黒神官達は、気を失ったまま留置所的な場所にぶち込んであるとか。
「そうしたら油断したから『神気』をお見舞いして、二人のしたところで祈りを捧げたもう一人が姿を消したのよ」
「ふむ、暗黒神官固有の奇跡ですかな」
あたしにとってもある意味奥の手とも言える固有神聖魔法の情報をバラしてしまうのは痛いけれど、ここで黙っていて『闇潜り』であの三人が脱獄でもしようものなら更に厄介なことになりかねない。衛兵に引き渡したのも報復を避ける為だが、脱獄してきた暗黒神官が逆襲しに来ましたよ、なんて展開も勘弁して欲しい。
(捕まったままなら、そのまま火あぶりコースよね)
間接的に人を殺してしまうことに躊躇いは覚えるが、この葛藤は世界に来てしまった時点で確実にぶち当たる壁だ。元の世界と比べれば、危険と隣り合わせであり、治安も悪い。
(躊躇がそのまま自分や親しい人の死に繋がりかねない世界)
なら、自分の命を狙ってきた相手の事までわざわざ思いやる必要はあるのだろうか。
(今あたしが感じてる躊躇いは――)
あの三人が死んで欲しくないからではなく、自分の手が汚れるのが嫌だから。結局の所、エゴだし甘えであってそれ以外の何ものでもない。
「しかし、よく姿を消しただけだと解りましたな」
「確証はなかったわ。瞬間移動する奇跡とかの可能性もあったから当たれば儲けもの程度の気持ちで石を投げたのよ」
「つまり、当てずっぽうだったと?」
「そうよ」
自分も同じ事が出来るからと正直に話せば一緒に火あぶり確定なので、あたしは嘘をつく。というか、はやくしんでんにかえりたいです。
(隠し事してて心臓に悪いのもあるけれど)
何より、神殿お披露目の準備も進めなければいけないのだ。取り調べについて衛兵は玄人の筈、素人のあたしが普通に嘘をついても見破られかねないので、あたしは途中から帰りたいオーラを前面に出して対応している。それに訝しむ様子は見えないことから、嘘のカモフラージュは上手くいているのだろう。というか、いっていると思いたい。
「少なくともあたしの知ってることはだいたい話したわ。それで、さっき話した様に帰って内職をしないといけないのだけれど」
内職と言っても作業してお金を稼ぐ訳ではなく、お披露目用に神殿を飾る装飾品を作る作業だ。この世界では羊皮紙が主流で折り紙の入手は望むべくもないが、端布なら手にはいるので、これを加工しここ数日は帰宅後ちまちま造花を作り、今日の目標は三十個。
「おっと、そうでしたな。お引き留めして申し訳ない」
「いいえ、こういう時に協力するのは市民の義務でしょ」
こうして、元の世界で担任の教師と親を交えた三者面談した時より精神的に疲弊しつつもあたしは解放された。この後ギルドに依頼の報告をしなければいけないし、あの暗黒神官達が持ち込んだと言う依頼の件も話しておかないと行けないと思う。
「何でこんなに疲労困憊してるのかしら……」
足取りは重く、口からはため息が漏れる。
「うむ」
そして後ろにはアッバスさん。もう何でここにいるのかは聞かないことにした。どうせ配達の帰りとかだろうし。
「何やら疲労しているようであるな。これを飲むと良い」
「あ、ありがとう」
疲労回復効果のあるポーションを差し出してくれる辺り、いい人なのだから。
(そうよね、世の中悪いこともあれば良いことも……)
開封して薬瓶を煽りながらあたしは空を仰ぐと。
「うぐ、酸っぱ」
思いっきり顔をしかめた。
(ま、まぁ良薬口に苦しって言うし)
ポーションは酸っぱかったが、薬で一番重視すべきは効果なのだ。
「あ」
割と速効性だったのか、急に身体の疲れが消え、体の芯から何かが漲ってくる。
「よぉし、これなら」
あたしはまだ戦える。
「行こ、アッバスさん」
「うむッ」
謎のテンションに達したあたしはアッバスさんの手を握ると全速力でギルド目掛けて走り出し。
「って、あたし何でアッバスさん連れてきてるのよーっ!」
「うむ」
我に返ったのは、ギルドについてからだった。
謎のテンション。
薬って怖いですね。
続きます。




