十七話『厄介ごとには出来るだけ関わりたくないの』
「嫌な事件だったわ」
解決出来る力があるなら別だろう。ただし、あたしは自分の力に自惚れられるほど楽観的ではなかった。だから、連行されて行く変人達を見ながら、そう呟いて締めるつもりだったのだ。
「ふはははは、何を言うかと思えば」
「衛兵如きにどうにかなる我々ではない」
「甘く見られたモンだな、俺らも」
だが、一瞬虚をつかれたものの、男達は勝ち誇ったように笑う。本当に衛兵さんに通報されても何とかしてしまえるとでも言うのか。
「ほぅ」
作った険しい顔にローブの変人が気づいて声を漏らした。
(この三人……)
一瞬にして張りつめる空気の中、あたしは迷う。声を張り上げ衛兵を呼ぼうとした隙をついて何か仕掛けてきたなら、術中にはまってもおかしくはない。
(いきなり難易度跳ね上がりすぎじゃないの! 報酬変わってないのに)
相手は実力未知数の三人、こちらは一人の上素人だ。睨み合ったまま人が通りかかるのを待つにしても、ここで待ち伏せをしていたぐらいだ、人通りはないに等しいのだろう。
(っ、せめてもの保険でも)
あたしは背に回すように隠した左手の指を伸ばしたまま全てくっつけた。前に出せば片手で拝んでいるような形になるが、奇跡を起こすには神官が武器として使っている錫杖のように奇跡の行使を前提とした武器を構えるか手で祈りを捧げる形を作る必要がある。
(気づかれないよう祈るしかないわね)
両手を組んだ方が片手の時より発現する神聖魔法の効果は大きい。が、同時に隠れてこっそりやるには不向きだ。確実にバレる。
(まぁ、神聖魔法を使えることをあの三人が知ってるなら、楽観視は禁物だけど)
『神気』をぶつけるフォース・ブリッドは基本的に単発。アレンジを加えれば三方向に撃ち出したりも可能だとは思う。ししつがあるからってぶっつけほんばんでこうどなてくにっくをためしてみるきなどさらさらないわけですが。
(第一、相手がどう出るか)
「どうした、衛兵を呼ばんのか?」
変人の一人が余裕綽々の態度で問うてくるが、それ自体が罠のように聞こえてくる。実は先方もビビッていてブラフという可能性だって考えはした。
(こんな時こそアッバスさんが通りかかって欲しいのに)
世の中本当にままならない。緊張は、引き絞られつつある弓が力を蓄えるように高まり。
「そう言えば、聞いてなかったけど用件は何?」
張りつめたままの空気を、むしろどんどん決壊へ近づきつつある膠着状態を誤魔化すつもりで、あたしは問うた。
(どのみちこんな怪しい格好で待ち伏せていたんだから、ろくな理由じゃないでしょうけど)
発覚したら確実に後ろへ手が回りそうな犯罪が妥当か。ここまで前振りしておいて宗教勧誘とか客引きだったら、あたしはフォース・ブリッドをぶっ放さずにいる自信がない。
「そうか、これは失礼したな。異教の神官」
「我らは」
「暗黒神様の為の生け贄を欲している」
「っ」
分担して語った動機は、あたしの予測した中では割と嫌な部類の物にして、滑稽なものだった。暗黒神を崇める者が同じ神に仕える神官を掠って生け贄になどと言い出しているのだから。
「あの夢はこの前振りかぁぁぁぁ!」
思わず叫んでしまったって、あたしに罪など無いと思う。
「なっ」
「夢による未来予知だと?!」
妙な方に勘違いをして驚いているが、そんなことはどうでも良い。あたしは思いきり息を吸い込んで。
「異端よー! 異端者がいるわぁぁぁぁ!」
全力で叫んだ。自分の立場上もの凄く抵抗があるのだが、躊躇っている暇はない。
「は、フォース・ブリッドでも撃ってくるかと思」
『フォース・ブリッド!』
「げぐがぁぁぁっ!」
どうやら本当に衛兵を呼ばれても問題なかったらしく、嘲るような声を発したが気を緩ませたのが運の尽きだ。
「まず、一人ね」
ど素人だからって荒事に巻き込まれる未来は決定している。かといって付け焼き刃の護身術で殴りかかるよりはマシと、ただ一つだけ練習していたものがあったのだ。
「な、おいじょ」
『フォース・ブリッド!』
「へべぶっ!」
イメージは早撃ちのガンマン。祈りの姿勢を作って奇跡を起こすまでの時間を極端に短くする、ただそれだけを目指した反復練習をあたしはこっそりやっていた。
「くっ、『闇潜り』」
最後の一人、町人な服装の暗黒神官が建物の影を闇として身をとけ込ませるが、相手が暗黒神官でこちらが衛兵を呼ぼうとした段階で、この奇跡を使うことは読んでいた。倒した二人に気をとられてる隙をついて姿を消したつもりなのだろうが。
(影や闇にしか隠れられない性質さえ知ってれば――)
あたしは足下の石を拾い集めると。
「そぉい!」
たてものの影目掛けて一気にばらまき。
「痛」
「見つけたわ、『フォース・ブリッド!』」
「おばぁぁぁっ!」
最後は両手を組んで威力を増加させた『神気』の弾丸で三人目をぶっ飛ばしたのだった。戦いへの恐怖や不安もこの時には綺麗さっぱり吹っ飛んで、かわりに高揚感が胸を満たしていたあたしだが、別にトリガーハッピー的な何かでは無いと思う。
「何処だ、異端はどこだー!」
「あ、こっちです。……しかし、何て言うか」
とりあえずさっきの叫びに駆けつけてきた衛兵さんに手を振り、あたしは倒れている暗黒神官達へ目をやった。最初に戦うことになったのが人間でしかも一緒にされたくはないものの、暗黒神官という現実。
(このまま放置して逃げられたら、根に持って仕返しに来るかもしれないし)
禍根は断っておくべきだと思いつつも、自分以外の暗黒神官を初めて目にし、感じた残念感に高揚していた気持ちは何時しか冷え始めていたのだった。
仲間になる展開も考えてましたが、敢えて最初は邪悪な倒すべき暗黒神官にしてみました。
素質があるが故に、資質の範囲内で修練を積めばその方面でのチートにさえなり得ます。
今のところ主人公は神聖魔法の発動がやや早い程度の能力しか持ってませんが、今後の修練次第で大化けする可能性はあったり。
続きます。




