十六話『そして配達は問題なく終わりましたとさ。めでたし、めでたし?』
「はい、確かに受け取りました。ご苦労様、貴女にも光神様のご加護がありますように」
「……気持ちだけ受け取っておくわね」
アクシデントに巻き込まれる様な気がしていたのに、そんなことは全然なかった。肩すかしとでも言えばいいのだろうか。
(まぁ、何もなくて良かったと思うべき何でしょうけど)
ならば、あの胸騒ぎは何だったのか。やっぱりアッバスさんの存在感を少年漫画か何かの様に感じ取った結果なのか。
(ひょっとして、あたしじゃなくてあたしの親しい人に何かが――)
胡散臭い配達依頼は避けた、外に採取に出かけるような依頼は受けていない。となれば、消去法で思い当たるのは、場合によっては危険に自ら飛び込んで行く光神神殿の神官さんたちということなる。先日もギルドで郊外の不審者調査に神官が同行すると言うような事をアレクが口にしていたではないか。
(大丈夫かしら?)
危険を避けるのは、戦闘力はあっても戦闘経験のない小娘としては当然の行動だと思うのだ。だが、アレク達は違うだろう。武術の鍛錬も、いざという時の為なのだろうし。
「けど、それはそれよね」
ドライと言うなかれ、中途半端な情報だけを頼りに郊外まで走り出すなど馬鹿のすることだ。何となく主人公っぽい行動だとは思うものの。
(まずは確認)
そもそもあたしは危険を避けていたからこそ、郊外の土地勘は全くない。言っても迷子になるのがオチだからこそ、あの話がどうなったかギルドに確認に行くべきだろう。
(報告もしないといけないものね)
別に、依頼報酬の方が大事とかそんな訳ではない。引き受けた仕事はきっちりこなす主義であるし、第六感が告げるのだ。こんな時に漫画やライトノベルの主人公めいた行動を取るとろくな事にならないと。実際、あの手の主人公はこの短慮が原因でトラブルに巻き込まれたり場合によっては大怪我までする。
「嫌な感じがするんだから、慎重に行動するのは当然よ」
自己弁護めいたことを呟きながら、歩き出していたあたしはギルドの位置を確認しながら十字路を右折して――。
「ククク、やはり来たか」
「え゛っ」
道を塞ぐ様に佇む男の姿に顔を引きつらせた。黒い袋に前を見る穴を開け覆面にしたものを被った男が三人。
「なんかへんなのがいますよ?」
などと口から漏れてしまったことを誰が責められよう。
「「誰が変なのだ!」」
漆黒のローブまで着ていたなら黒ずくめ集団と言えるのだが、一人はごく普通の町の人っぽい服を着ているし、もう一人はローブこそ着ているものの、色が茶色。最後の一人に至っては一応色こそ黒く塗っているもののどう見ても革鎧だった。そんな男達が声をハモらせて抗議してくるが、これはどう見ても変なのでしかない。
「顔を隠しているのが変なのではないと?」
「うぐっ、こ、これは世を忍ぶ仮の姿だ」
「そ、そうだ。本当はローブで統一したかったがこの国で黒のローブは目立つし、季節的にも暑い」
「ちょ、おま、こっちはせめてローブだけでもってわざわざ着て来てんだぞ!」
あたしの指摘に革鎧の変人さんはそう言ってのけたが、町人風の言葉にローブの変人が噛み付いた。
「茶色でどうする! 土いじりの汚れは目立たぬかもしれんが、色こそ重要だ!」
「そ、それは、後で染めればいいだろ! だいたい……」
(ツッコミたい……色々ツッコミたいけど)
「二人とも何をもめているっ!」
もの凄く嫌な予感がヒシヒシするが、内輪もめを始めたのは幸いだとも思う。あたしはぐっと左拳を握りしめ、軽く右手を挙げた。
「それじゃ」
胸騒ぎの原因がこれならスルーに限る。
(ごく自然に、取り込み中ならお邪魔ですね、的な笑顔を……)
演技というのは、小学校の学芸会以来だが、この時あたしは真剣だった。
「あ、ああ。すまんな、気を利かせて貰……って違ぁぁぁぁう!」
「くっ」
だが、世の中甘くない。
「変人にツッコむの我慢してたのに逆にツッコまれるなんて」
「は?」
屈辱だった。
「って、そうではない。我々の用意した依頼、スルーしたかと思ったが結局は受けたようだな」
「くく、意地汚い奴だ。結局は金と言うことか」
「えっ?」
そして、あたしは驚きつつも色々なことを悟った。変人三人が語るに落ちた気もする。たぶん、この三人があの胡散臭い依頼の主であり、依頼はやっぱり罠であったこと、たまたま通りかかったあたしがあの胡散臭い依頼を受けたと勘違いしていること。
(たぶん宅配ルートでこの三人が待ち伏せていた場所がたまたまここだったと言う事よね)
張り込んでいた場所を通ってしまったのは偶然として、問題は三人組の狙いだ。依頼を引き受けた冒険者がターゲットなら、三人の見当違いなのだが。
(顔まで隠して何かしようとしているのだから、「勘違いでしたー」で終わるとは限らないし)
目撃者は消す、と襲ってくる事だって考えられるのだ。
「何ですか、あなた達は。衛兵さん呼びますよ?」
「「えっ」」
もっとも、真っ昼間にこんな怪しい格好で襲撃してきた時点で、頭の中身はお察しレベルなのだけれど。
そろそろガチバトルやらかそうかと思ったら、いつの間にか馬鹿三人が通報される流れになっていた。
あるぇ、どうしてこうなったんだろう?
続きます。




