表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/41

十五話『人って自分に都合のいいことを思い描くものよね』


 だいたいそうして裏切られる。


「それならもうありますよ?」


 見るからにファンタジーな世界、文明レベルもあたしの居た元の世界より劣っていた。ならば、文明格差からくる先進技術を売ればこの国を出る旅費もあっさり捻出出来るかと思ったのだが、世の中はそう甘くなかった。にこやかな顔でアレクにそう言われたのは、冒険者ギルドで仕事を受けるよりも前のことだ。


(よく考えてみれば、みんな思いつくわよね)


 異世界から漂着する異邦人はあたしが最初ではない。ならば、先人が同じ事を試みていても当然。水洗洋式便所というオーバーテクノロジーが神殿にあった時点であたしは気づくべきだったのだろう。


(と言うか、凄すぎ)


 衛生概念とかも見た目のファンタジーっぷりを裏切る程度に進んでいたし、農業面でもあたしの先輩が持ち込んだ知識で随分生産量が上がったとのこと。カブとクローバがどうとか説明されて、ああそう言えばと逆にこちらが思い出した辺り、あたしの敗北は明らかだった。


「配達、ですか」


 そんな訳で、地道に依頼を受けることにしたものの。


「どうかしたの?」


「幾つか微妙なのがあるんですよ。こちらの裏がとれていない、まぁどんなことが起きてもギルドは責任持てません、みたいなものが」


「うわぁ」


 明らかに胡散臭かった。依頼書から『騙してやるぜ』オーラが漂っているかのような。


「もちろん、真っ当な依頼ってこともあるんですよ? 急ぎの用で期限が近くて裏を取ってる時間さえなかったものとか」


「つまり、真っ当な依頼でないこともあるのよね?」


「えーと、ノーコメントで」


 ジト目のあたしから受付嬢がわざとらしく顔を背ける辺り、ろくでもなさは推して知るべし。


「まぁ、その代わり報酬は破格ですけどね、急いでいる場合が殆どですから」


「っ、参考までにどれくらい?」


 もちろん、あたしだって受ける気はない。これは、興味本位というか冒険者としてやって行く以上、相場を把握しておく必要があったからに他ならない。


「ピンキリですよ、これとか前金ついてくる上に下手な討伐依頼より報酬良いですし」


「は? いち、にい、さん……これゼロの数間違っていない?」


 思わず目を剥いて、受付嬢に問いつめてしまったのだって、報酬が本当にとんでもなかったからだ。


(少しぐらいの危険ならあたしの使える奇跡で気配を断てば)


 依頼自体が罠で道中待ち伏せされていたとしても、暗黒神官としての真価を発揮すればスルーは出来るかもしれない。もちろん、配達先もグルで品を受け取った相手が豹変してきたらアウトだけれど。


「間違ってませんよ?」


「そ、そう。じゃあ――」


 依頼書を見返した受付嬢の言葉で我に返ったあたしは、もう一度依頼書を見て、決断を下した。


「では、もう解ってると思いますが、この依頼書を持っていって届け先で履行のサインを貰ってきて下さい。サインされた依頼書と引き替えに報酬をお渡ししますね」


「任せておいて。荷物は、それね?」


「はい」


 そう、依頼を受けたのだ。


「やっぱり、堅実が一番よね」


 もちろん、裏のとれてるものを。失敗してもリセットボタンを押してやり直せる家庭用ゲームとは違う。


(実戦に行くとしても一人はないわー)


 光神神殿の武術鍛錬に何度か参加はさせて貰ったものの、荒事に自信があるかと言われたらないと断言出来る。


(討伐依頼はまだ早いし)


 行くとしても、きっと光神神殿の誰かに同行を頼んでじゃないとあたしは受けないだろう。


「行ってくるわ」


「お気を付けてー」


(自分が未熟だとは理解してるつもり、だからこれでいいのよ)


 今は対して危険のない仕事で、経験を積もう。受付嬢の声を背に、ギルドを後にして。


「今のフラグじゃないわよね?」


 立ち止まり、あたしはポツリと呟いた。


(ベタと言えばベタだけど、胡散臭い依頼は受けなかったし、受けた依頼はギルドで裏がとれてる筈だし)


 荒事に巻き込まれる要素は極力排除したと言うのに、妙な胸騒ぎを感じたのだ。


(まさか……)


 あれか、あれなのだろうか。


「この感じは――アッバス」


「うむッ」


「って、ちょっと待てっぇぇぇぇッ!」


 アッバスさん、どんだけ神出鬼没なんですか。


「む?」


「いえ、お店に居なくていいの?」


 ポージングで応じたまっちょにあたしが投げた言葉に僅かな棘が含まれていたことは許して欲しい。


「うむッ、配達の帰りでな。店番は娘がしているので問題はないッ」


「娘ッ?」


「うむッ」


 あっばすさんにむすめさんがいるとか、このせかいはあたしにはふしぎすぎた。そもそも、とどけもののとき、なんでみせばんがむすめさんじゃなかったんだろう。


「妻に似て美人でな、我ながら――」


 アッバスさんの親馬鹿話を左から右の耳に抜けさせつつ、仰いだ空はとても青かった。



しゅじんこう は ないせい ちーと を こころみた!

だが ないせい ちーと は すでに つかわれている!


明らかな虎口を当たり前のようにスルーした主人公。

だが、なぜか感じる胸騒ぎ。

その原因は本当にアッバスさんだったのか?


続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ