十三話『超展開と急展開は勘弁して欲しいのよ』
「んーとね、無事に最初のお仕事こなしたって司祭様が聞いて、これ預かってきたの」
「これは?」
やたら豪華な装飾の施された巻物を見て、あたしは尋ねてみたのだが。
「……その、この神殿の正式な権利書」
「え゛」
ブラッドの用事は割と重要なものだった。
「『今までは我々がサポートしてきましたが、何時までもおんぶにだっこではいけないでしょう。これを機に少しずつ自立の道を歩んでいって下さい』だって」
司祭様としては、あたしに発破をかけたつもりなのだろう。だが、定住どころかこの国を去る予定のあたしとしてはかなりのありがた迷惑でもある。
(売り飛ばす訳にもいかないし、この国出る時どうすればいいのよ)
たぶん置いて去るか突っ返して去るしか無いのだろうとは思う。信者を獲得出来る新天地を目指してみる、とか去る理由付けだってどうとでもなるとは思う。
(とはいえ、これって信頼して渡してくれたって事よね)
返す時は絶対に気が重くなると思う。
「えーと、ブラッドもわざわざありがと。じゃあ、この権利書は金庫に保管しておくわね。司祭様にもあたしが感謝していたって伝えておいて」
「あ、うん、そうする……」
ともあれ、ブラッドが伝言を承諾してくれたからには一件落着だろうか。
(さてと、あとは――)
さっきのくろれきしをくちどめしておくだけですよ。平仮名になったことに意味はあまりない。
「あとね、ブラッド」
「えっ?」
「さっきのことだけど……」
些少まごつきながらかけた声にブラッドは答えて向き直り、あたしはどう切り出すかで言葉が詰まった。
「何て言ったらいいか、その……」
「だ、大丈夫、神に仕える身だからね? えっと、秘密は守るよ? 懺悔とか聞くこともあるし」
「あ、そ、そう」
引っ込み思案な相手にきっちりとした対応された上、気まで遣われた時、あたしはどうすればいいのだろう。
(いけない、いけないわ。ここは年上なのだからいつものように主導権を握らないと)
今日のアレクといい、今のブラッドといい、神殿関係者にペースを狂わされ放しな気がする。
「ここは冷静に。そう、いつものあたしにならなきゃ」
ここから挽回するのだ。
「いつものあたしは――」
「……えっと、ツッコミお姉ちゃん?」
「そうっ! ビシバシツッコむわよー、なんでやねーん、って違ぁぁぁぁぁう!」
「ひうっ、ご、ごめんなさい」
ブラッド、あたしをなんだと思っていたのか。うっかりノリツッコミしてしまったあたしに過失はないと信じたい。
「け、けど……よくツッコミしてくれるし。バッシュさんとか、放っておくと色々大変だし」
「あー、まぁ、アレは放っておくとあたしにまで火の粉降りかかってくるもの」
毎回やるとファンのお姉さん達の印象が悪化するので、本気でツッコむ時は身の危険を感じた時とか話が進まなくなった時なのだが。
「し、司祭様もアレクさんや他の人も感謝してるし……」
「と言うか、あたしからすればもっとビシバシ言ってくれる人を作るべきだと思うのよ」
いくら美形だからと言って、別の神を崇める神官にちょっかいかけて怒られ、中庭を走らされるような男なのだ。誰かが矯正するべきだとあたしは思う。
「あー、えっと……」
「何?」
力説した自分にブラッドがもじもじして見せたから、あたしは反射的に聞いただけだった。
「ま、前には居たの」
「えっ」
それも、言いづらそうにブラッドが俯いたことで、失言であったことに気づく。
「ごめんなさい、無神経なことを言ったわ」
前は居た、それがどういう意味であるかこの流れで察せないほどあたしは鈍くない。きっと何らかの理由で、亡くなったのだろう。ひょっとしたらバッシュのあの勘違いっぷりも親しい人を失った反動なのかもしれない。
(あたしは異邦人だったわ。ほんの少し一緒にいただけで色々知っていたような気になっていたけれど)
思い上がりだった。だから謝罪の後、あたしは床に視線を落としたブラッドの言葉を待ち。
「……えっと、バッシュのお姉さんがね……お姉ちゃんみたいに注意してくれていたのだけど」
「そう」
「うん、他の街に赴任してほしいって別の街の司祭様に要請されて」
「はい?」
そして、恥をかいた。バッシュのお姉さんはここから南にある大きな街の神殿で副神官長を務めているのだとか。
(あぁああぁぁあぁ、また失敗したぁぁぁぁぁっ!)
別にあたしがそそっかしいとか、そう言うことでは無いと思う。
「あ、あとね、お姉ちゃん」
「何、バッシュのお姉さんが他にも何か?」
実はお姉さんは双子とか三つ子で、連係攻撃が得意だったりするのだろうか。
「ち、違うよ。書類の移譲が完了して、もっと先だけどこの神殿の正式なお披露目をしないと行けないからその日時を決めておいて欲しいって」
「え゛っ」
あんこくしんさま、げんじつとうひにばかなことをかんがえたばつなのでしょうか。ブラッドが投げた二つめの爆弾に固まったあたしは、復活するなり絶叫したのだった。
主人公、どんどん残念な子になって行く気がするのは、気のせいか。
ひょっとしたら兄と同じで遺伝なのか。
光神神殿関係者に振り回される日は、まだ当分続きそうなのであった。
続きます。




