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十二話『思い立ったが吉日とは言うけれど』

(何もやる気の起きない日だってあるのよね)


 お金を貯めてこの国を出て行く必要がある事を考えれば、許されざる惰弱かもしれなかった。だが、あたしはまだ戸惑っていて。


「簡単に割り切れるなら良かったのに」


 口に出しても、心のモヤモヤが消えてくれない。光神の神官さん達に掃除を手伝って貰ったこともあって、ベッドに横になりながら見る寝室の壁は埃色ではなくなっている。


「ここの掃除も大変だったわ。いつも神殿の掃除して慣れてる神官さん達が手伝ってくれなかったら、もっとかかってたわね」


 そんなことないですよ、と照れを含んだ幻聴が聞こえた。


「あ」


 実際の掃除が終わりかけた時、後半と全く同じ事を言ったのだ。幻聴はそのデジャヴに引き摺られたのだろう。掃除にはアレクも来ていたのだ。


「はぁ、割り切ろうとしてる時に思い出すなんて……」


 距離を取ろうとしたはずなのに、アレクはことあるごとにあたしへ話しかけてきた。教義を考えれば、あの積極性はデフォルトかもしれない。異世界からの漂流者に親切にするようにと神様に言われているからかもしれない。


「そもそも、浮いた話も聞かないものね。女の子に興味な――」


 そうだ、そもそもアレクは恋愛に興味があるのだろうか。


「これよ!」


 あたしは何を考えていたのだろう。


「ねぇ、アレク。あたしのことが好きよね?」


 なんて痛い勘違い質問などしなくても、ぼかした質問をすれば良いではないか。


(まずは恋愛について聞いてみる、それで興味がなければ問題ないわ)


 ひょっとしたら誰か好きな人が居たりするかもしれない。その場合は全力で応援すればいい。


(恋のキューピッドも恩返しと思えば……あ、けどアレクが好きな他の人には恩を仇で返す事になるかしら?)


 途中で自分の至らなさには気づいたけれど、あたしの悩みが自意識過剰で終わる可能性が出てきたのだ。


(そうよね、あんな美形があたしに気があるとかないない)


 思ってて何処か悲しくなってきたのはきっと気のせいに違いない。


(もし、じつはおとこのひとがすきだったなんてことになっても、あたしはあれくへのたいどをかえないわ)


 ならば候補者はと検索した結果に、同性が入っていたことについてはなかったことにしたいと思う。


「問題はいつ聞くか、ね」


 うっかり光神様の声を聞いてしまったり、アレクに抱きつかれて変に意識した当日なので、流石に今から光神神殿へ戻って聞いてくるような面の皮の厚さをあたしは持ち合わせていない。


「かといって、明日は冒険者ギルドに行って仕事を探さないといけないし……うーん」


 唸り声や、意味のない音があたしの口から漏れる。


「神殿までのお使いとかがあればいいけど」


 世の中、早々都合良く行くとは思えない。この世界に流された時はそうでもなかったものの、時として荒事も考えられる冒険者をやって行くなら楽観的すぎる思考は危険だと思うのだ。


(アレクに会いに行くはずが、またバッシュと遭うなんてことも考えられるのよね)


 流石にアッバスさんは居ないと思うが、光神神殿に保護されたあたしにとって、あの神殿は顔見知りの宝庫でもある。善意による行動を推奨する教義があるから、積極的な人間が神官には多く、一人の世界に流れてきたあたしを気遣って「お友達になりましょう」と行ってくれた神官さんもかなりの数に上った。


(そう言う意味ではアッバスさんに足を向けて寝られないわ)


 よくよく考えると中庭の辺りからは「お友達になりましょう」攻撃を殆ど受けていない。いくら相手を思ってのこととはいえ、神職のお勤めや訓練を放り出してまで話しかけてくる猛者は少ないので、急ぎつつもお取り込み中の場所を選ぶようなルートで中庭までは行ったのだが。


(気圧されるのはあたしだけじゃないって事よね。良かった良かった)


 アッバスさんと一緒だと、話しかけてくる人が少ないのだ。素直に喜べないのが、切ないけれど。


(だからといってもうあっばすさんのかおはおもいうかべませんよ)


 イメージかと思ったらご本人降臨は、一度でいい。叫んだり悩んだり遠い目をしたり。一人だと思って、あたしは色々やらかしてるのだ。こんな所を目撃されたら黒歴史にしかならない。


「あたしは兄とは違うんだからっ」


 一日一回は残念なところをあたしに見せつけないと死んじゃう病を煩っているあれとは違う。断じて違う。


「あの……」


「え゛」


 ただ、こうやってムキになって否定する時って言うのは、たいていお約束というものが到来するのだ。


「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん。その、何度か声かけたけど……返事、なくて」


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「ひっ」


 戸口から顔の四分の一位を出して覗き込んでる少年の存在を知覚し、事態を認識したあたしは即座に絶叫していた。悲鳴を上げて戸口から少年の顔が引っ込んだ様な気もするが、見られていたのは間違いない。


(見られたっ、見られたぁぁぁぁ)


 転がる、あたしはベッドの上でゴロゴロする。考えていたことの半分は口に出していないけれども、それが慰めになるだろうか。


「ならないわ、ならないじゃないのよっ」


 そもそも、あの少年の事を何故忘れていたのか。「光神神殿の三美形」最後の一人、小動物系にして光神神殿の神官には珍しい引っ込み思案。それで居て行動力があり、用があれば相手について行き物陰から話しかけるタイミングを窺うのが、仕様。


「え、えーと、ブラッド?」


「あぅ、その……ごめんなさい?」


 ようやく落ち着いたあたしが名を呼ぶと、戸口から泣きそうな顔をした少年が顔を出す。さっきのことは口止めしたいものの、ブラッドがわざわざこの神殿までやって来たと言うことは、何か用事があるはずなのだ。


「あー、それは後で。それより、何かあったの?」


 だからこそ、あたしは問うた。さっきの黒歴史をどう誤魔化すか、考えながらも。


ようやく出せた、三人目。

さて、この少年が来訪した理由とは?


ちなみに、寝室に踏み込んだのは、返事が無くて倒れてるといけないと思ったというのが理由らしいです。


続きます。

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