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十一話『デジャヴなんかじゃないのよ』


 奇声を出し蹴りだけ放っていれば万事解決、愛と悲しみの格闘ファンタジー。


(って、そうじゃなくて)


 あたしがそんなライトノベルのことをつい思い出してしまったのは、来た道を戻って中庭にさしかかって居たからに他ならない。


「どぅッ、どうッ、どぅッ、どぅらぁぁぁッ!」


 相変わらず暑苦しい。と言うかあのかけ声の人、さっきより動きが進化してるように見える。ツッコんではだめだろうか、駄目ですね、わかります。


「バッシュさまぁー、頑張ってーっ」


 女性の神官が黄色い声援を向ける先には、砂袋をぶら下げた勘違い男が中庭の外周を走っていた。たぶんさっきの罰なんだと思う。


(これは見つかったらまた面倒なことになりそうね)


 とはいうものの、こんな人目のあるところで暗黒神の奇跡を行う訳にはいかない。かといってあたしに授けられた資質は暗黒神官のものであって、盗賊とか暗殺者的なものでもない。


(見つからずにあそこまで行けるかしら?)


 もっとも迂回したら迂回したでまた別の厄介ごとに遭遇しそうな気もするので、通るしかないのだが。


(たまたまアッバスさんが通りかかって物陰を作ってくれる何てご都合主義的な展開もないわよね)


 そんなことを考えていると実際に出てきそうなのが、アッバスさんの恐ろしいところだ。流石に今回は出てこなかったけれど。


(せめてバッシュには見つからないように……)


 ねらい目はこちらに背を向けた時だろう。四角い中庭の外周を走っているのだから、次の角に達するまでは背中を向けている筈。


(よしっ、あとは変に注目されないように早足で――)


「う゛おぉぉぉぉぉッ、とぅへあぁぁぁぁぁッ!」


 ツッコんじゃ駄目だとあたしは静かに戦いながら、中庭沿いの廊下を行く。国民の殆どが崇めている光神様の神殿だけあって、あたしが靴音を刻んでいる廊下一つとっても実に洗練されたデザインになっている。


(確か、前にテレビで見たどこかの大学がこんな感じだったわね)


 異世界まで流されたあたしにとって、還ることが出来なければ大学など無縁だとしても、現実逃避くらいはさせて欲しい。


「いくわよぉんッ! そぉれぇッ!」


「きゃッ、ヴェゴンちゃんったら今日はいつもより大胆ッ」


 でないと、ツッコんでしまいそうだから。おねぇっぽい言葉遣いで組み手してるマッチョメン約二名とかに。


(そりゃ、荒事に駆り出されることもあるんだから百歩譲ってゴツいのはわかるわ、けど……)


 なぜおねぇなのだ。異色の存在過ぎてついあたしが目に留めてしまった可能性は否定出来ないとしても、あれは少数派なのだと己に言い聞かせざるを得ない。


(そうよ、あれは少数派。少数派の変な人。変な人の少数派……)


 下手に神様へ祈ろうものなら、あのシステムな光神様に繋がってしまいそうで、祈ることは出来なかった。


「うぐっ、わたしとヴェゴンちゃんは少数派。私達を倒してもやがて第二第三の変な人少数派が……」


 むしろ連想ゲームで、さっきのおねぇの人があたしの想像の中で瀕死になりながら三流悪役みたいな事ほざき出していた。自分の想像力の豊かさが恨めしくなるのはこういう時だ。


「っ」


 もうさっきのおねぇな人の顔がまともに見れなくなっていた。気を紛らわそうと無意識のうちに色々した結果がこの有様で。


(うぅん、違うわ)


 あたしは気づけば頭を振っていた。そうではない、と指摘したのは心の冷静な部分。


(誤魔化そうとしてるのは、逃げてるのはさっきのあたし自身から――)


 結局の処、練武に目がいってしまったのも想像力が大暴走したのも、認めたくないからだ。あたしが、ほんの僅かでもアレクを異性として捉えてしまった事を。


(そりゃ、神様の言葉もあるから親切にはしてくれてるわよ)


 だが、相手があたしを異性として好いているかとは別だし、あたしは光神神殿の人達と仲良くする訳にはいかないのだ。


(あたしが暗黒神官である限り、別れは絶対にやってくる)


 それが、暗黒神官とバレた上での刑死なのか、この国からの脱出という形を取った離別になるのかも解らない。全く別のケースだってあり得る。


(でも、やってくるのよ)


 だから、親切にしてくれた恩だけ返してあたしはいつかこの国を去る。余計なしがらみや未練なんて残してはいけない。


(そう言う意味では、はっきり振った方が良いかもしれないわね)


 あの勘違い男ことバッシュについては。放っておけば、誤解したバッシュファンのお姉様方の敵意は募る一方だろう。


(もしくは「さっきの取り巻きの誰かとくっつける」だけど……)


 選ばれなかった女性神官達と選ばれた一人がもめる気がする。


(だったらいっそのことハーレムとか……は危険ね。あの勘違いレベルだとハーレムが出来た暁にはあたしもハーレム構成員扱いしかねないわ)


 ちなみに「いっそのことさっきのヴェゴンさんとやらとくっつければいいんじゃ」なんておもったりはしませんでしたよ?


(まぁ、とりあえず振るところまでは確定として……ただ、流石に今から戻ってわざわざバッシュに発見される必要はないわね)


 悩むなら、ある意味敵地であるここでうんうん唸る必要もない。


(帰ろ、あたしの神殿なら祈れば暗黒神様がアドバイスしてくれるかもしれないし)


 二次元で我慢しろとかそんなアドバイスだったらあたしも宗旨替えするかもしれないが。


「次の依頼は明日で良いわよね。買い物も――」


 この時、あたしは敢えて光神様の助言については考えないことにしていた。


『貴女に向けられた想いは真摯なもの』


 怖かったのだ、まさかの展開が待っていそうで。それに、あたしの早とちりなら、あたしはバッシュを笑えない。


「何時までもここのご厄介にはなれないもの。明日から、依頼をバンバンこなしてお金を貯めるわよ」


 他の国に居を構えられる程溜められなくても、旅人をやっていけるだけの蓄えがあればいい。ライトノベルで見るほど旅が簡単なものだとは思わない。


(けど、何時までもここには居られないのよ。だから……)


 自分に言い聞かせるようにして、あたしは右の拳を強く握りしめた。


光神神殿の三美形、そろそろ三人目を出したいところですが、主人公が悩みすぎてて顔を出すタイミングが。


十五話までには出せるといいな。


続きます。


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