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十話『今のはツンデレじゃないわ、ただの照れ隠しよ』


「ありがとうございますっ」


 どうして、こうなった、だろうか。感謝のプレゼントを最初に渡す相手にアレクを選んだのは、突然の異世界トリップで途方に暮れるあたしが最初に会ったこの世界の人間だからでもある。


(つまるところ、刷り込みよね)


 鶏の雛が生まれて最初に見た動く物を親と錯覚するように、心細かったところを親切にされた印象が鮮烈だっただけ。だから断じて恋をしてるとか、そう言う訳ではない。


(とはいうものの、これは……)


 感謝の言葉と一緒にポーションを渡したら、アレクに感激されて抱きつかれ、ハグは今も継続中。兄がふざけて抱きついてきた時とは違う、純粋な好意。


(……よね?)


 相手は日本人ではない、オーバーリアクションされても文化の違いで片が付くと思っていた。


(なのに、なんであたし……)


 意識しているのだろうか、ひょっとしたらバッシュの自意識過剰が感染ったとか。


(そりゃ、美形に免疫はなかったし……彼氏的なモノが居たことも無かったけど)


 居心地の悪さと、良さ。そもそもこんなにストレートに感謝の気持ちを投げかけられたのは、いつ以来だったか。


(おやつをあげたあーちゃん家の「りっしー」は犬だから除外するとして……)


 手作りのお弁当を作って欲しいと土下座してきた兄に、仕方なくお弁当を作って渡してあげた時のことも除外する。と言うか、あたしの兄はどうして家ではあんなに残念なのだろうか。


(そとではもてもてとかぜったいうそですよ?)


 共通の幼なじみから聞いた情報なので信憑性は高いはずなのだが、アレがもてもてとかいうあり得ない情報などあたしには受け入れられなかった。


(家での兄が素の筈。ないわー、モテモテとかないわー)


 お菓子とかを恥ずかしそうに頬を染めつつ持ってきた年上のお姉さんとかだって、あたしをドッキリにはめるサクラに違いない。あの兄がモテモテなら、彼氏居ない歴年齢のあたしはどうすればいいのだ。


(にじげんですか、にじげんにとうひすればいいのですか、あんこくしんさま?)


 平仮名で祈ってみたが、暗黒神様は答えてくれなかった。いや、光神の神殿で祈ってる時点で答えがあるはずもないのだけれど。


『まず、しっかり状況を把握してみてはいかがですか?』


「え゛」


 現実逃避からの回想を経て、自分の中の妙に冷静な部分が自己完結に導いた筈だというのに、頭に直接響いてきた声にあたしは固まった。


『そして、向けられる想いを吟味して結論を出すのです。良かれこそ良きなり、貴女に向けられた想いは真摯なものの――』


 声の主は、あたしに資質を授けてくれた神様のものではない、まず性別が違った。そもそも、明らかにどこかで聞いた言葉を含んだそれは。


「どうしました? 急にそん」


「光神様?」


「え」


 アレクの顔に驚きが感染した。むしろ、驚いたのはあたしもだけれど。


「ねぇ、アレク。光神様って別の神様を崇める人にも語りかけて下さるものなの?」


「い……え、全く無いという訳ではありませんが、大昔の書物に僅かな記載があるくらいで極めて希な筈です」


 そりゃそうでしょうよ。そもそも、あたしが聞いた話では光神様の本体は眠りについているはず、たぶんあたしが声を聞いたのは資質を授けてくれた存在の様なシステムなのだろうが。


「下手すると、騒ぎになったり?」


「するかもしれませんね。神の言葉を聞けるのは、我々神官や司祭様に限られます」


 いっぱんじんにはしんじゃでもきくことのできないりょういきですか、そうですか。


「もしくは、これから神職へつこうと志す方ですね。おそらく貴女には授けられたものとは別に資質があったのかもしれません」


「あたしに資質が……」


 全てを打ち明けていないのだからアレクがそう言ったのにも無理はない。他所様の神殿で別の神様に祈ってしまったことが原因とも考えられるのだから、あたしとしては素直にうけとるわけにも行かず。


(ただ、怒ってはいなかったわよね)


 自分の神殿で己以外に向けられた祈りだった筈なのに。当神ではなく、ただのシステムだったからか、それとも神様自体が寛容だったりおおらかだったりするのか。あたしには、まだ結論が出せず。


「じゃあ、さっきのあたし達だけの秘密でい……いっ?!」


 確認する為の言葉を口にしつつ、我に返って固まった。そう言えば、抱きつかれたままだったのだ。


「ちょ、ちょっとアレク、離し」


「……あ、す、すみませんっ」


 たぶん、あたしの顔は真っ赤だったと思う。ごく普通の言葉を交わす程度には免疫も出来ていたと思うのだが、流石に美形に抱きつかれて平然としていられるようなポーカーフェイス技能の持ち主ではない。


「よ、良かれこそ良きなり……でしょ? わ、悪気のないことぐらい、わかってるんだから……」


 あとで思い出したらどこのツンデレだとまくらに顔を埋めそうなこの言葉さえ、この時のあたしには絞り出すのが精一杯で。


「さ、さっきの神様の声を聞いたっての秘密にしておいてね? それじゃ」


 その場に居づらくなったあたしは、気がつけば踵を返していた。


暗黒神様の出番が奪われた。

だいたいそんなお話?


続きます。

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