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一話『あなたにお話があるのですが』

「自宅警備員になって頂きたいのです」


「は?」


 あたしはそのとき、もの凄く間抜けな顔をしていたと思う。けど、絶対に仕方ないと思う。


「じたくけーびいん、ですか?」


 これだけでも予想外の申し出だったし、何より異世界に来て二日目。携帯があったら絶対に写真とってた美形が真面目くさった顔で口にしたものだったのだから。


(自宅警備員って、あれよね?)


 働かず、一日中家の中でゴロゴロしていろってことだろうか。いや、それはないと思う。


「何かおかしな事を言ったでしょうか?」


 あたしの反応に美形の人、確かアレクって自己紹介した高位の神官さんは首を傾げた。ひょっとして、この世界では同音異義語な別のお仕事でもあるのだろうか。


「『自宅警備員』というのは、『己の住まう場所を守護する者のこと』だとかってこの地に流れ着いた漂流人……異世界人が残しております。お話を聞くにあなたと同郷の方だと思われるのですが」


「え゛っ」


「いえ、ですからあなたと同郷の方がそう言われたそうなのです。自分は故郷でも自宅警備員をやっていたと」


 えーと、それはたぶんただのはたらいていないひとです。というか、そんなひととひとくくりにされるのはすごくふほんいなのですが。


「あまり多くを語らない方でしたが、英雄とは本来そう言うものですし」


 思わず平仮名になってしまった心の声はアレクには聞こえず、誇らしげに語る姿を見ているとあたしの頬の筋肉は自然と引きつった。


「それで居て豊富な知識をお持ちの方だったそうですよ。魔法にも魔物にも詳しく――」


(それって、ゲームだとかライトノベルなんかの知識を流用しただけなんじゃ?)


 何にしても、この世界に流されてきた日本人の自称自宅警備員さんは、この国に大きく貢献したそうで、街の広場には立像もあるそうな。


(その人が凄かったのか、あたしでも偉人になれるほど『救済措置』が凄いのか……どっちかしら?)


 この世界へと流されてくる異世界人は、一人の例外もなくこの世界の神様から恩恵を授かる。望んで異世界へと来た訳でないあたし達は神様曰く、犠牲者の様なもので、哀れに思った神々は一つの取り決めをしたらしい。


(「この世界で不自由なく暮らしていける程度の資質を与える」か)


 数多き神々の中、一人の異世界人に資質を与えるのは、一柱。この世界へ流されて最初に眠った場所で夢を見て、そこで恩恵を与えてくれる神様と引き合わされ、どのような資質が授かるのかの説明や、資質を授かってすぐに使える力があればその力へのレクチャーなどが行われた。


(けど、あれってどう考えても嫌がらせよね)


 あたしももちろん神様とは引き合わされた。『暗黒神に仕える者』という資質も授かり、魔法まで使えるようになったのだ。光の神を国教とし、暗黒神を崇めるものを異端だと弾圧する光国の首都で。


(ばれたら邪教徒扱いで火あぶりとか、ないわー)


 アレク達にはあたしに資質を授けたのは忘れられた神で、種別としては神官職としておいた。よくよく話を聞くと、アレクが自宅警備員になってねと言った理由もここにあって。


「流石に忘れられてしまった様な古き神の神殿はこの都にはありませんから、神殿も間に合わせで申し訳ないのですが」


「あー、つまり、あたし一人で神殿を切り盛りしろってことね」


「はい、警備の方も……流石に光神様を崇める我々が受け持つわけには参りませんし」


 頭の中でファンファーレが鳴った気がした。あたしは、いっこくいちじょうのあるじとなった。


(って、どーすんのよぉ、この状況ッ)


 信者ゼロ、神官一名、では収入源は?


「冒険者……言わば何でも屋のギルドに登録すれば、そちらの方で生計は立てられると思いますし、神殿で寝食すれば宿代もかかりませんから」


「そっか、それで活躍して名声を得れば信者も集まると」


 いかにもなるほど、と言うように頷いておくが、この国で暗黒神の信者を獲得出来るはずがない。だから、感銘を受けたのは形だけだ、が。


「いえ、申し訳ありませんが国民の殆どが光神様を崇めてますので、信者獲得は難しいかと」


「だったら神殿になんの意味があるっていうのよーっ!」


 申し訳なさそうなアレクの言を聞いたあたしはツッコまざるをえなかった。


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