Reary!?
ここは、一体どこ?
雪生は歩きながら、辺りをキョロキョロと見渡していた。自分がライブを行っていたあのホールに戻ろうと、人にも聞いてみたけれど、煙たそうな顔で相手にもしてくれなかった。東京も冷たくなったものだと嘆いても、どうにもならない。
どうしよう。どうやったら戻れる? まずここはどこなんだ。ああ、帰りたい。
雪生は思わずしゃがみこみ、勢いよく立ち上がった。
よし、こういう時はあれだ。落ち着こう!
落ち着こう落ち着こう。
石段に座って、ああ喉が乾いたな、と呟いてみる。そうしたら本当に喉が乾いてくるから不思議だ。ああ喉かわいたー。
「ってなるかぁ!」
我ながらなんてノリツッコミだ。慣れないことはするもんじゃない。
雪生は座りながら、唯一の相棒を握りしめた。そうだ、もう自分にはこれしかない。
初めは穏やかに、段々とテンポを上げて、雪生はギターを鳴らす。こんな時でも興奮の波は来る。雪生は思うがままに唄った。声は響き、人の足を止める。
懐かしいな。昔はこうやって、ストリートから始めたものだった。もしかしたらこれは、天罰なのかもしれない。高くなった鼻をしまう、好機会なのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。そういえば先程から、変装もしていないのに声もかけられないじゃないか(こちらからはかけたが)。
もっと前向きに考えれば、これは神が用意した休息ではないか? この世に神などというものが存在するのなら、だが。
不意に顔を上げると、雪生を囲むように集まった人々が、興奮した声を上げていた。
あれ、俺の休息が……。
成谷 燈は駆け出した。人混みを掻き分けて、逃げるように走り出した男を追って。
「お金はいいんですかー!」
そう叫んでも男は止まらない。ずっとずっと走って、もといた場所がわからなくなったころ、男はやっと立ち止まった。絶望だ、という顔で。
「もうだめだ。戻れない。ここはどこなんだ……」
そんな雪生に、燈は恐る恐る声をかけた。
「あのー……」
「なんですか」
男は面倒そうに眉をひそめた。
「さっきの歌、スゴくよかったです。感動しました」
ああ、ありがとう、と男は困ったような顔をした。
「でも、その服はナイですよね」
「ナイ……?」
「なんていうか……確かにレトロ流行ってますけど、なんていうか……まんま昭和?」
男は驚いたように目を丸くした。
「まんま昭和って。昭和も平成も、そんなに変わらないでしょう。まあ、もう4年ですからね。そういうのに敏感なら僕のファッションもダサく見えるのかもしれないけど……」
「え? なに言ってるんですか? 4年?」
「平成になってから4年、でしょ?今。あれ……僕、なにかおかしいですか?」
燈は戸惑った。
「だから、なに言ってるんですか。今は平成二十四年じゃないですか」
男は絶句している。じゃないですか、と呟いて目を丸くする。
「2012年ですよ、大丈夫ですか?」
うわぁぁあああ!!
頭を抱えて叫び始めた男に、燈は照れ笑いを浮かべて言った。
「私と一緒に、トップを目指してみませんか? あなたなら、きっとスターになれますよ」
男は燈の肩を掴んだ。
「そういう次元の話じゃない!」
こうして、20年も昔のスター 田坂雪生と、スターを生み出したい現代っ子 成谷燈は出会い、物語はその第一歩を踏み出しました。
燈ちゃん登場。
和暦と西暦がちゃんと合っているかどうかわかりません。なんせ今何年だかも怪しいので←