Humming.
また随分笑われた。
雪生は少しうなだれながらテレビ局内を歩いていた。どんなに格好つけていても気落ちくらいはするのである。
しかしそれでも、雪生専用の楽屋が用意されたときには嬉しかった。たとえそれが正当な評価でなかったとしても、あの頃と同じように騒がれるのは楽しい。
楽屋の扉を開けようと手をかけたとき、中から小さな声が聞こえた。
伸びやかかつ透明感のある声で、力強く歌う。
雪生は静かに腕を下ろした。
成谷燈。雪生のプロデューサー兼マネージャーを自称する女性である。雪生にはいまいち解せなかった。
なぜ、雪生に関わるのか。
どう考えても納得できない。雪生は捨てられると困る身であるから、なにも言わないのだが。
部屋で見つけてしまった、大学ノートを思い出す。それは、燈の字でたくさんの自作曲が書いてあった。
燈は、輝いている人間を見るのが好きなのだと言う。雪生はため息を吐いた。違うだろう、と。
本当は、輝きたいのだろう、燈も。
雪生はもちろん、もとの時代に戻りたいと思っていた。しかしそれと同じくらい、彼女をなんとかしてあげたいとも思っていた。
雪生に、歌の良し悪しなどはわからない。ただ、燈の歌は好きだった。それは自信を持って言える。燈が雪生に歌ったことはないのだが。
静かにドアノブを回す。燈が驚いたように雪生を見、少し照れくさそうにお帰りなさいと言った。
「燈さん」
「なんですか」
雪生はギターを手繰り寄せ、燈を手まねいた。
「ギターを教えます」
「遠慮しておきます」
燈は心底嫌そうに顔をしかめた。なぜ、と雪生が問うと、私はミュージシャンじゃないですから、と答えてくる。
「でも、ギターを弾ければ格好いいですよ」
「カッコつけは田坂さんだけで十分です」
四の五の言わずに、と言いながら雪生はギターを無理矢理構えさせた。それから燈の背後に回り、覆い被さるようにして弦を押さえた。
弾いてみて、と燈の耳元でささやく。それから、今度はここを押さえて、と指示する。上手くいかない燈を見て、雪生は笑った。
「左手の爪が伸びてるから。でも、筋はいいですよ燈さん。今度、弾き語りをお願いしたいですね」
燈は顔を赤くした。
「さっきの、聞いてたんでしょ」
目を細めて、雪生はかぶりを振った。
「いいえ」
燈がまた、聞いてたんでしょと詰め寄る。雪生は意地悪っぽく首を横に振る。プチンと堪忍袋の緒が切れ、燈はギターで雪生の頭を殴った。
「ああ!俺のギター!」
あんたは自分よりギターのほうが大事なのかよ、と燈が突っ込み、少しだけ笑った。
短……。二人にラブを求めた私が馬鹿だった。




