prologue
〈1992年 4月25日〉
マイクの前に立ち、パッと電気が灯る。構えたギターはいつも、心を落ち着かせてくれる。この世界で一人だけ、自分を理解してくれる相棒。そんな相棒の弦を鳴らすと、世界が色を持ち始めた。
「聞いてくれ。新曲だ」
地割れを起こしそうなほどの歓声。これは自分が作り出した宗教だ、と思いながらギターを鳴らす。
嗚呼どうか、こいつらが神様から早く、解放されますように──。
ユキオー!! と叫ぶ声に、少しだけ頷く。興奮した声はあちこちで上がった。その声に答えるようにリズムを速くしていく。
俺はいつかこいつらに殺されるのかもしれない。それでもいいか。
信じる者は救われる。でも神様はこいつらを救えやしない。それなら、こいつらに殺されるのも一興だろう。
ユキオー!!
わかったよ、と客席を見ると、先ほどとは異なるざわめき。客はポカンとして上を見ていた。つられて自分の頭上を見れば、迫る光。
「照、明……」
それは大きな照明器具だった。
嗚呼、思った通りにはいかないのが人生だな、なんて呑気に思っていると、瞬間目の前が暗くなった。
〈2012年 4月25日〉
瞳を開ければ、明るい光。しかしそれは、さっき自分を押し潰そうと迫ってきた照明器具の明かりではない。自分は太陽の下にいるらしい。
気を失っていたのだろうか。どうやら無事だったらしい。自分をここまで連れてきたのは誰なのだろうと辺りを見渡す。と、違和感を覚えた。
周りには想像を絶するほど高い建物、ありえないファッションセンスの人々。
戸惑いながら近くの建物に入ると、そこは駅によく似ていた。しかし、これが駅なのだろうか。伝言板もない、代わりに液晶画面を叩いている人々はいる。洒落た珈琲屋もある。洒落すぎていてよくわからない次元だ。
こんなところが、日本にあるのだろうか。
1992年から20年もの時を超え、伝説的ロックンローラー、田坂 雪生は駅の真ん中でギターを握りしめていた。
新しく始めた連載です。よし!頑張って終わらすぞぉ←