表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 empty doll

作者: 八潮

 

 僕は、からっぽ。

 ほかの人形(みんな)みたいに、楽器も弾けない。歌だって歌えない。


 だから、大好きな君を楽しませることが、できない。


 こんな、からっぽの僕を、ほかのみんなよりも大切にしてくれているのに。

 ぼくは君に、なにもかえせない。


 せめて、「ありがとう」とだけでもいえればいいのに...。



『お人形さん、行ってきます!』  


 ああ、今日はお母さんと出かける、って言っていたね。

 僕は、「いってらっしゃい」がいえないから。

 そのかわりに。

 君が楽しんでこれることを祈っていよう。




 「あーあ、嫌になるわ!」

 と、きれいなドレスを着たクマが言った。

 「本当だよ。なんであの子はこんなからっぽの役立たずを大切にするんだ?」

 「ねー、こいつは僕らみたいに歌も歌えない!楽器も弾けない!ただのゴミじゃないか!」

  

 ほかの人形たちも、いっしょになっていやみを言い始める。

 

 わかってる。僕が役立たずだっていうのは。

 みんなが僕を嫌っているのは昔からだ。

 こんないやみだって、言われなれている。


 でも、やっぱり、ききたく、ない。

 耳を塞いでしまいたい。

 なのに、僕の両手は、気を付け、の位置から動かない。

 

 「おい、なんかいえよ、empty(からっぽ)さん?」

 「だめよ、猿。こいつはしゃべらないんだから!なにをいっても無駄よ!!」

 「そりゃそうか!」

 

  あははは、とみんなが笑う。



 逃れられない現実を、突きつけられる。

 苦しい。

 いやだ、聞きたくない。

 聞きたくない、ききたくないっ!

 やめろ、やめてくれ。


 僕は、ぼくは...!




 「ぼくは、からっぽなんかじゃない!」

  


 わらっていた人形たちが、急に黙った。 

 僕は、なにがおこったかわからなかった。



 いま、僕は、しゃべったの、か?

 僕は、しゃべれた、のか?



 ざわ、ざわ...と声がする。

 しん、としていた人形たちがだんだん今起こったことを、理解し始めていた。




 「な、なによっ!やっとしゃべれたぐらいでっ!」

 クマがこっちへ向かってくる。

 

 動いてみようとしたけれど、やっぱり僕はうごけなかった。

 


 クマは僕の前で止まった。

 「ほら!動けないんじゃない!なまいき言わないで!!」



 あれ...?彼女、泣いてる...?

 「あたしたちがどれだけ頑張っても、あの子はあんたしか愛しちゃいない!」

 「そんなこと...」

 「そんなことあるのよ!どれだけ頑張っても愛してもらえないつらさが、あんたにはわかるの!?」


 周りの人形たちもうつむいて涙をこらえているようだった。


 わからなかった。

 みんなが、そんな風に思ってたことなど。

 しらなかった。 

 みんなが、僕のせいで苦しんでいたなんて。

 悲しんでいるのは、僕だけだと思っていた。

 

 クマが、顔をあげて僕をにらむ。

 そして、もう一歩、僕に近づく。


 「おい、クマ、落ち着けっ!」

 猿がいったが、クマは聞いていないみたいだった。

 

 「あんたなんて、あんたなんてっ...!」




 「壊れちゃえばいいのよぉぉぉぉっ!!!」 

 



 そういって、クマは僕を突き飛ばした。




 僕は棚から落ちていく。

 みんなの驚いた顔が、遠くなっていった。




 

 がしゃん、と音がして陶器製の僕の体はばらばらになった。






 ...どれくらい時がたっただろうか。

 あの子の楽しそうな声が近づいてくる。


 だめだ、来ちゃいけない。

 こないでくれ。


 そんな僕の願いもむなしく、部屋のドアがひらく。



 笑い声が、きえた。

 一瞬、時が止まったようだった。

 


 それから、つんざく様な悲鳴が響いた。

 あの子が、一歩一歩近づいてくる。



 あの子が、ひとつひとつ僕の欠片(かけら)を拾い集める。 

 くりくりした大きな瞳から涙がこばれ、僕の体を伝っていく。



 悲鳴に驚いてかけつけた彼女の親が近づいてきて、あの子の頭をやさしくなでている。

 それでも、涙はとまらない。




 あぁ、僕は君に、なにもあげられなかった。君がくれた愛を、かえせなかった。

 それどころか、こんなに悲しませてしまったね。



 あぁ、ごめん。ごめんね。

 僕がからっぽじゃなかったら、君は、君の人形たちは、悲しまずに済んだのにね。

 ごめんね。

 お願いだから、もう泣き止んで...?





 僕はもう、消えるから。



 

----------------------------------------------------



 お母さんに連れられて、君はゴミ捨て場に僕を置いていく。

 一生懸命直してくれたけど、僕の体はもとには戻らなかった。

 ときどき振り返るその顔に、また涙がながれていた。



 あの子が道をまがり、姿が見えなくなった。

 

 ...最後に、笑顔をみたかったんだけどな。



 「かわいそうに。捨てられたのかい?」

 しばらくしてから、見たこともない真っ黒な鳥が、そう話しかけてきた。



 「捨てられたんじゃないんです。僕が、からっぽだったから。...あの子は悪くないんです。」

 ふうん、といって、鳥は僕を眺める。



 「あたしには、あんたがからっぽにはみえないけどね?ま、カラスのあたしに関係ないか。」

 ばさっ、と羽をひろげ、鳥は飛び立とうとした。



 「待ってください、僕がからっぽじゃないって...どうして?」



 鳥が僕を見おろしてくすくすわらう。

 「だって、おまえは泣いているじゃないか!」

 「え...?」

 「泣けるってことは、心があるってことじゃないのかい?」


 にこ、と笑い鳥は、飛び立っていった。



 ...こころ?僕には、心がある?

 


 目をとじて感じてみる。




 とくん、とくん、と胸を打つ音がした。



 ああ、僕は、からっぽじゃなかった。

 自然と、笑みがこぼれる。


 からっぽじゃ、ない。





 

 僕のなかには、こころがあった。

 

最後まで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

初投稿です。次はもっと上手くかけるようになりたいです...。


※気になる点、意見や感想がありましたら、メッセージ送ってくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ