7 王子おびきだし大作戦!(2)
かくして王子おびき出し大作戦は開始した。約一名、既に脱力気味ではあるが。
「…ということで、王子ー出てこいー貴様はもう包囲されているー」
「お母さんも天国で泣いてるぞー」
「お母さん悲しいっ息子がこんな怠惰な生活を送ってるだなんてっ!もうお父さんにあの世で顔向けできないわ!」
「王はまだ健在ですよ、ってかお嬢がお母さん役なのか…って、何だよこれ」
「“たてこもり犯との交渉術その一、お母さんの涙の術”よ。引きこもりにはこれが一番有効だって、ホメおばさんが言ってたわ」
こもり違いだ。
「二、三年引きこもってるやつに今さら通用しねーだろ…」
そう言いながら、アルヴェンは手にもった拡声器をまじまじと見つめた。こんなもの、市場には出回ってないはず。スイッチ一つで大声が出せるなんて、初めて見た。
珍しげに拡声器を眺めるアルヴェンを見て、マカはふんぞり返って満足げに言った。
「闇商人から買ってみました!どうどう?なかなかいい品でしょ!」
「闇ルートかよ!ジン、しっかりしてくれ…お嬢がどんどん危なげな方向にー」
しっかりしてての結果なのだが、それを彼は知らない。
「…何かもっとほかの方法はないのか」
「あるよ!ふっふっふ。ジャジャーン!“これで気になるあの子もいちころ☆魅惑のお菓子シリーズ”!」
そう言って、どこからとりだしたのか、マカはいろいろと不思議な色をしたお菓子らしきものを床に並べ出した。床にお菓子を置くなよ、と思いつつ、良く見ようと屈みこむと、
「ふがっ!何だこの匂いは!」
「あぁ、ドアをも通り抜けるよう、匂いは通常の100倍になってるから」
さらっと言う少女に、アルヴェンは目を見張った。なんて過激な。今頃のテロリストだってそんなことはしない。
マカは自信満々で、お菓子の皿を赤いテープの境界線ぎりぎりまで近付けた。
「これなら王子も出てくるはず…ふっふっふ。マカ様特製のおやつでおちなかった子供は今まで一人もいなかったのよ」
おちるというか、違う意味で堕ちたのではないか。主に意識とかが。
すると、驚いたことに、ドアの向こう側からドンッと何かがぶつかったような音がした。
目を見開くアルヴェンの横で、目標が餌にかかったと信じて疑わないマカは目を輝かせて頬を紅潮させた。
「ほらほらほらぁぁあああ、きたよきたよっ!さぁ出てこい!このままの勢いで出てくるが良いよ王子!」
気分が向上し、勢いよくバシバシと床を叩く。マジかよ…と呆れるアルヴェンと一緒に、次の展開を息をひそめて待った。
しかし、思惑は悪い方に外れた。ドアを開いてでてきたのは、小さな犬型のロボットだったのだ。
カタカタと可愛らしい音をたてて、ぎょろりとした青鉄の犬が出てくる。ちょっとシュール。
よく見ると、何か紙をくわえている。どうやらそれを渡しにきただけのようで、マカの手に渡ったことを見届けると、床に突如開いた穴からするりと消えてしまった。…ドアから帰れよ、とアルヴェンは内心ツッコミをいれる。
何はともあれ、王子からのファーストコンタクトである。今まで頑なだった王子がこうもあっさり堕ちるとは…とアルヴェンは訝しげだったが、マカは意気揚々と手紙を開けた。
「何々…『クサイ ジッケンナラヨソデヤレ』まぁ失礼な!私の傑作スイーツ集第13号を実験呼ばわりなんて!」
ポイントが違うだろう。13号というと、それまで12個あったということにアルヴェンは気になった。どれだけの犠牲者をだしたのだろう、と想像するだけで顔が引きつる。
「手ごわいわね…」
自分の印象がみるみる急降下しているとは露知らず、マカはむむぅ、と難しい顔をして考え込んだ。