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H O P E  作者:
Ⅰ はじまりは神話にのせて
6/33

6 王子おびき出し大作戦!(1)

 「ああああどうしよう、えらいことを承諾しちゃったわ」

 「承諾してしまったものはしょうがないでしょう…とりあえずお茶でもいかがですか」

 「いる」


 ホカホカと湯気を立てる淹れたてのお茶をジンから受け取り、ずずずーっと勢いよく飲み込む。

 いや、まぁあれはしょうがなかった。だって大神官さまきってのお願いだし。ていうかあの人殿下のこととなると人変わるな…。かなり冷徹な人っぽかったのに、意外。


 「とりあえず、やるっきゃないでしょう。これも子供たちの為、マリアーヌの維持のためと思えば我慢できるわよ。例え相手が王子で、そいつがまためんどくさいことに引きこもりだったとしても」


 チクチクと言うマカに、ジンは苦笑を浮かべながら自分もお茶を口に含んだ。マカと違って、自分は仕事内容を少しとはいえ知っていたため、それに返す言葉はない。

 今日はひとまず退散、と決定し、マカとジンはマリアーヌへ戻ってきていた。実質仕事は明日から、そして地獄も明日から、である。

 そのための作戦会議…といいつつ、提唱したマカ本人がぐだぐだとなっているため、会議はいっこうに進まない。

 どうしたことか…と、ジンは内心ため息をついた。

 元気で明るくて、一度引き受けた仕事は維持でもやり通す、というのが自分の敬愛するお嬢様の性分だが、その代わりやる気が出るまでが長い。つまりやればできる、という言葉をそのまま実体化した感じなのだ。それをいつもうまく舵をとるのがジンの務めである。

 しかし、今度はやりたくねーとぐだぐだ言いつつ、その言葉には既に仕事を果たすという熱意が含まれていたことに、少し首を捻っていた。珍しい。いやまぁそのほうがジンにとっても都合がいのだが。


 「マカ様、なんだか今回はやる気ですね」

 

 成長しましたねと微笑むと、マカはあぁ、と首をぐるんとこちらへ向け、目を輝かせた。


 「ふふ、腐っても王宮の仕事…給料がいいっていうのは流石ってものよね」

 

 それを聞いて、ジンは笑顔をひきつらせた。

 お嬢様は、仕事にやる気を出しているのではなく、ただお金に目がくらんでいるだけだった。


 上機嫌のマカはそのまま調子よく続ける。


 「報酬はいくらでも出す?そんな甘っちょろいこと言ってもいいのかしら。こうなったら、維持でも王子を引きずり出して、ちゃっかりがっぽり貰っちゃうわよ!そしてあわよくば王子の知恵を有効活用!これぞ一石二鳥!!」


 使い方が違う、そう言いたかったが、言ってる本人が目が据わっていて、とても言い出せる雰囲気ではない。というか、貴族の娘がこんなに金に困ってるだなんて、仕事内容にされた王子本人でさえ思っていないのではないか。


 「さぁ、待ってろ引きこもり王子!マリアーヌで鍛えたこの肉体、この精神、とくと見せつけてやるわ――――!!!」


 王子は年上ですよ、と小声で付け加えたものの、それが拳を振り回すマカに届いているかどうかは定かではなかった。




   X X X




 「ってことで引きずり出しちゃうぞ!」

 「わぁーパチパチ…って俺らだけですか?」

 「ジンは運悪く、米倉当番になっちゃったからねぇ」


 翌朝。張り切っているマカの隣には、大神官の名の下、マカのもとに配属された兵士が一人。

 名をアルヴェンといい、短く刈ったオレンジに近い茶髪が陽に当たってきらきら輝き、切れ長の目はいいたずらっぽく輝く、どこか少年のような青年だった。これでジンと同い年、さらに旧知の仲らしい。マカも小さい頃に数回会ったことがあるが、その時と雰囲気はあまり変わっていない気がする。世界はまだまだ不思議で溢れてるなーと、年の割に大人っぽいジンを思い出し、彼と比較しながらマカはその青年を眺めた。

 

 「くそぅ、ジンだけ気ままに倉庫の番だと!俺は若干命の危険に瀕しているというのに!」

 「いや、命の危険はないでしょう。王宮の内部で戦争でも起こすつもりなの?」


 呆れて言うと、ふざけていたアルヴェンは、カラリと笑った。


 「で、何か策はあるのか?」


 アルヴェンは腕を頭の上で組み、くるりとこちらを振り向いた。その仕草で、腰に帯剣している鞘がカチリと鳴る。なるほど、俺はいつでも行けるぜーということか。王宮の隅とはいえ、剣を振り回すのは駄目だろう。

 その言葉に、マカは平然と首を振った。


 「ううん、ない」

 「えぇぇぇええええ!マジ!?あの王子に!?この王宮一賢くて、どんな策も通じないという鉄壁の王子にまさかの無策!?」

 「何の策も通じないってことは、どんな最強の策を練っていってもダメってことじゃない。それも、猿の浅知恵程度の私の策じゃ、どうせ通じないことは目に見えてるし。それなら、当たって砕けろ精神でいこっかなと思って」


 さらりと無策を匂わせるマカに、アルヴェンは唖然として彼女を見つめた。


 「いや、まぁそうだけどそうだけどそうだけどさっ!普通何かあるんじゃないの」

 「だから理念はあるってぇー。“当たって砕けろ”」


 ぐっと親指をたてると、場の雰囲気が一気に冷めた。あれ、おかしいな。




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