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H O P E  作者:
Ⅲ 王子と茶会と舞踏会
23/33

22 封書が告げるはじまりは、

 「最近、菓子の量が少なくないか?」

 「…は?え、いや、そんなことはありませんよ!!」


 レオと仲良くなってから数日。

 彼はほぼ毎日といっていいほどマカの調理部屋(第二王子私室の元空き部屋)に立ち寄り、少量の甘味を口に入れゆったりくつろいでからまた執務へ向かう。その間セイヴェルトは部屋で研究やら本やらに没頭しているのでレオの存在は知らないはずなのに。

 どんだけ食い意地張ってるんだ、と頬をひきつらせるが、セイヴェルトの唐突な問いかけに慌ててしまったので少し雰囲気が重い。

 その間も彼は口を止めることなく、もぐもぐと今日のおやつの大福を頬張っている。顔だけはこちらを向いているので、膨れた頬が目立って余計に腹が立つ。くそぅ、変なところに気がつくんだから!


 「~~ッ、何でもないです!殿下、口に物を入れたまま喋ってはいけないと申したでしょう!しかも昨日!」

 「むぐっ、ゲホッ…

  それとこれとは話が別だろう!」

 「私の中で今一番重要なのは殿下のマナー違反を正すことなので」


 ふふん、と腕を組むとセイヴェルトは恨みがましげにこちらを睨む。しかしマカの指摘を受け、文句を言うことなく黙り込んだ。


 …どうやらうまく誤魔化せたようだ。心の中で汗をぬぐう。

 別にレオのことを故意に隠すつもりはない。仕草から判断して彼がセイヴェルトの親類であることは間違いないし、接している内に誠実で良い人だということも分かった。ただしチキンハートの持ち主だけど。

 しかし何故だか、セイヴェルトに告げてはいけない気がしたのだ。かっこよく言えば第六感が働いた、噛み砕いて言えば女の勘。ほとんど当たらないことが多いというかなりちんけなものだ。

 


 ただし、今回ばかりは…



 「…お嬢、殿下、ダニエル様がいらっしゃいました」



 不思議と、当たっているような気がするのだ。



 ごくんとセイヴェルトが大福を呑み込む音と、アルヴェンが静かにドアを開いた音が重なった。




 あぁ、嫌な予感はもうすぐ。




   X X X




 「…セイヴェルト殿下ぁぁぁあああよくぞ御無事で!あぁ、どこか体に異変はありませんか!?きちんと食事と睡眠をとっていますか!?マカ殿がいらっしゃってから規則正しい生活は送れて」

 「ええい鬱陶しい!!ダニエル!少し落ち着け!!鬱陶しい!!」


 大事なことなので二回言いました。


 ドアが開いた途端、猛然と飛びついてきたダニエルにセイヴェルトは喚いて彼の腕の中から脱出しようともがいた。

 ようやく落ち着きを取り戻し、ダニエル、セイヴェルト、マカがソファに体を沈めたとき、大神官の愛にもみくちゃにされた王子殿下は引きこもりの象徴であるフードも取れ、赤い瞳は疲労に染まっていた。


 「……普通の挨拶はできないのか」

 「殿下が言えることじゃないですよね」

 「挨拶ですと!?久しぶりに殿下に会えたこの嬉しさをありのまま表現するのに普通の挨拶で事足りるとお思いですか!?」

 「わかった!わかったから落ちつけ!!」


 マカの鋭いツッコミと更に勢いを増すダニエルにセイヴェルトは疲れ切ってソファに身を沈めた。

 静かな暮らしを続けてきた彼に、ダニエルの灼熱の炎のような愛は痛いだけらしい。まぁ傍から見ててもイタイけど。皆の憧れ、麗しの大神官様の実態はアイタタタな王子溺愛主義者だから。



 こほん、とひとつ咳払いをし、ダニエルは神官服の内側から厳重に封をされた書簡を取り出した。


 「セイヴェルト殿下がマカ殿と接触した日から、国には第二王子は遊学から帰還された、と知らせをだしました。もちろん、その知らせは国王王妃両陛下にもお伝えしております」

 「…知っている」

 「すると、帰還報告を貴族たちにも知らせるためと言い…こちらを」


 差し出された封書を手に取り、訝しげなセイヴェルト殿下。

 何も注意されないからいいかと思って黙っていると国王の名が出た。その拍子にマカの頭にここにいてはいけないのでは?と疑問がわく。それを見透かしたようにダニエルはすぐさまマカを見つめて言った。


 「マカ様にも関係あることですので。退室される必要はありませんよ」


 ………。

 余計いたくないんですけどぉおお!!


 嫌な予感がぐるぐると頭で渦巻く。誰か頭の内で光り輝く赤いテールランプを止めてください。ビービーと警報もうるさいです。ちょっと耳が痛いからほんと止めて誰か!!


 そんな嘆きもむなしく、内で引きとめるマカの心を知らずしてかセイヴェルトはビリビリと封書を破いた。床にバラバラと可哀想な紙の残骸が散る。

 書簡を開いた彼の反応は、とても奇妙だった。紙を開くまで憔悴しきっていた彼の顔は読み進めていく内にどんどんと眉間に皺が寄っていく。いつもより不機嫌になり、読み終わると興味をなくしたようにポイと放りなげた。


 「ちょ、殿下何してるんですか!?」

 「…いい度胸だなダニエル。俺が奴らを嫌っているのは知っているだろう」


 低い、獣のような唸り声が部屋に落ちる。

 その反応は予想していたのか、ダニエルはそれには動じなかった。


 「そう言われましても。私は陛下からこれを預かり、殿下に渡してほしいと頼まれただけですので」

 「…白々しい。どうせ知らん顔しておけとでもあの偏屈ジジイに言われたのだろう」

 「おや、憶測だけで物を言うのは感心しませんね。それで…返事はどうなさるのですか?」

 「分かり切っているだろう。もちろん、


  ―――NOだ」


 フン、と鼻を鳴らした王子に、ダニエルははぁとため息をついて肩をすくめた。

 すっかりダニエルに興味を失くし、また大福に集中しはじめたセイヴェルトの横で、マカは心の中でひとりごちた。



 誰か、私に状況を説明してください。



 関係があると言われ、逃げ出そうとした自分の本能を押さえつけてまで残ったのに、この置いてけぼり状態。何のいじめですか?


 

 心の声は誰にも読み取られることなく、マカのため息とともに部屋の隅へ吸い込まれた。




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