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H O P E  作者:
Ⅱ 引きこもり王子の事情聴取
12/33

12 不法侵入

 夜。今宵は天気がよく、月が煌々と闇の中で輝いていた。

 そんな幻想的な雰囲気の中、月の光に照らされ、コソコソと王城の庭を進む影が、二つ。


 「…ここね」


 マカは壁に張り付くようにして足を止め、頭上の出窓を指差した。

 お供の人物は大きな風呂敷をかかえたままマカと同時に止まり、眉を下げた。


 「ほんとにやるつもりですか」

 「あったりまえじゃない!有言実行、これ我が性分なり、よ!!」

 「出来れば有言でも不実行がよかったんです…」


 はぁ、とジンは今日何度目かになるため息をつく。


 二人は第二王子の私室の丁度外側、質素な庭にやってきていた。王子と人との関わりの少なさがひしひしと感じられるほど、庭は荒れ果てている。壁にはりついた苔や蔦を見ると、マカは眉を寄せた。自分の家はまだしも、王城の壁に蔦なんて!見るだけで腹が立つので、後で許可をもらってぺりぺり剥がしてやろう。


 ちなみにアルヴェンはといえば、今回二人とは別行動である。

 マカに命じられた彼は、赤いラインの手前、つまり城の内側から王子を見張ることになっていた。窓から入ってドアから逃げられたら本末転倒だから、ということなのだが、誰にも知られずロボットを送って食事をとる王子のことだから、逃げ出すとしてもドアから出るとは考えにくい。しかし、万が一のことを考え、内側からカバーできる人を配置しておいたほうがよいというマカの意見はすんなり通った。

 そして、可哀想ではあるがダニエルさんは自室でお留守番である。大声では言わないが(マカは普通に言いそうになったのでジンにすぐ口を塞がれた)足手まといになりそうなので。

 

 「王子が出てきたら、すぐさまお知らせくださいねぇぇえええ」と叫びながらアルヴェンに引きずられていったのを思い出す。そうして、マカはすぐに後悔した。大の大人、しかも渋面の大神官様が一端の兵士に引こずられる様子は素晴らしく不気味だった。



 「うーん、誰も窓から入ろうなんて思わなかったのかしら」


 ぺたぺたと、まるで人の気配を感じさせない壁を触り、マカは首を傾げた。

 見たところ表立った仕掛けもない。見張りロボットがずらりと並んだ様子を思い描いて緊張していたのだが、閑散としたその雰囲気に驚いた。


 「というか、常識のある人間は窓から出入りするなんて考えないんですよ」

 「…あっはっは。ま、まぁお仕事だから!そのためには手段も選ばぬっていう!」


 お願いだからそこは選んでください、という心の声は、ジンの心の内だけで消化された。


 目的の窓の下に到達すると、マカは周囲の様子を探る。何もないと分かると、神妙な面持ちでジンを見つめた。


 「いい?手段を確認するわよ。まず、窓を割る。入る。襲われたら逃げる、もしくは王子を拘束して無理やり話を聞いてもらう。


 …OK?」

 「手段が短絡過ぎるだろうとか一応王子に対してその扱いは何だろうとかそういう小言はひとまず置いといて、了解しました」

 「………よぉーし!いきますかぁー!!」


 にっこり冷たい微笑みを送られ、マカは元気よく気合を入れた。王子()に気づかれないよう小声ではあったが、自身を奮い立たせるのには十分だ。ジンのお小言は続くと長い。書斎に二人閉じこもり(閉じ込められたともいう)、何時間もお説教大会を繰り広げられたときはこのまま窒息してしまうかと思ったのだ。



   X X X




 そっと窓をジンの指が這い、無機質なガラスも、何の仕掛けもない無防備な状態であることを確認する。窓には黒いカーテンが部屋を分厚く覆っていて中の様子はひとつも分からない。だが、アルヴェンから何の連絡もないところを見ると、王子はいつものように引きこもり中なんだろう。それだけでも、二人の突入には十分な情報だった。


 マカはジンから風呂敷を預かると、着々と進んでいく突入の様子をしげしげと眺める。アイコンタクトを交わすと、ジンが懐から短剣を取り出し、ガシャン、という音が常闇に広がった。

 それは城内に侵入者が現れた、という何よりの証拠である。すぐさま警備兵が集結し、侵入者を取り囲んで拘束するのが常なのだが、ダニエルをお留守番にしたのはただ邪魔だっただけではない。ここで大神官の本領発揮だ。彼には“今宵、第二王子の私室には誰も近づかぬこと。危険物が設置されていることに来訪者が気づき、それを処理するためだ”とメイドさんや警備兵たちにお触れを出してもらっていたのだ。そのため、今夜ここに近づくものは誰もいない。怪しいモノばかりを作る第二王子の噂を皆知っているので、そのお触れに疑問を抱く者は一人もいなかった。何かモノが割れる音や、爆発する音が聞こえたって、今夜限りは皆知らんぷりしてくれる、というなんとももっともらしく、マカ達には都合の良い言い訳だった。



 「まず私から行くわ」


 人一人が入れる大きさまで窓が割られたのを確認すると、マカは勢いよくジンの肩に飛び乗り、窓枠に飛びついて出窓に這い上った。こんなに侵入に手なれた貴族令嬢も珍しい、とジンはマカの下で嘆息した。

 しかし、ここまでするすると侵入が進むと、拍子抜けである。王城の警備、お触れがあるにしてもこんなんで大丈夫なのだろうか。意外にザルだぞ。


 王子の不気味な仕掛けやロボットが襲って来ないか警戒しながら、マカは慎重に足を運んだ。




何で私の小説に出てくる登場人物は皆窓から出入りしたがるの…?いや、私がするからじゃないよ決して。

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