第3話 和服美少女(?)は男前女子を見送る
和服の美少女(?)、鬼ヶ瀬魁は強い。
(助けに来られることなんて滅多にないのに……女の子が来るなんて)
魁はくすぐったいような気持ちになりながら、桜の後ろ姿を見送った。
凛と佇み涼しい表情を浮かべてはいたが、魁の心の中には今まで感じたことのないものが湧き上がっている。
(なんだろう、この感じ)
不思議に思って首を傾げる魁の後ろから聞きなれた声が響いた。
「お待たせしました」
魁が振り返ると、執事である真鬼永が立っていた。
真鬼はスラリと背が高い。
骨ばった印象の細身の体には、暑苦しい黒の執事服を着ていた。
長い黒髪を1つにくくって後ろに長し、整った顔には銀縁眼鏡をかけている。
真夏には暑苦しい服装だが、当人は涼しい表情を浮かべて主人に話しかけた。
「面倒なことになるところでしたね」
「まぁね。でも彼女が助けてくれたから」
魁が長い指先で桜を示すと、真鬼は白い布手袋をはめた右手で銀縁眼鏡のフレームをクイッと上げながらそちらの方へと視線をやった。
「珍しいですね。魁さまが女性に興味を示すなんて」
「ふふ。彼女、とてもいい匂いがしたんだ」
魁は桜の後ろ姿を眺めながら目を細めた。
「熟れた甘い桃みたいな、とてもいい匂いがね」
「桃なら買ってまいりましたが。これは手土産ですから、桃が食べたいのならまた買ってきますよ」
真鬼は、白い布手袋をはめた大きな手で桃の入った贈答用の箱を主の前に持ち上げてみせた。
「そういうことじゃないよ、真鬼……」
「そうですか? こちらのデパートで買い求めたこの桃、なかなか立派なものですよ?」
「そうじゃなくて……まぁ、いいけどさ」
なんとなく不満そうな魁を見下ろして、真鬼はフッと笑った。
「いいのでしたら、そろそろ参りましょうか」
「ああ、そうだな。まずは用事を済ませないとな」
真鬼が目配せすると、駅前のロータリーに立つ2人の前に、黒光りするセダンタイプの立派な車がスッと静かに止まった。
2人がサッと乗り込むと、車は何処かへ向かって滑るように走り出した。




