第23話 契約結婚生活開始?
挙式が終わって、魁は正式に鬼頭家の別棟で生活することになった。
鬼頭家の敷地内にあった別棟は、家といってもボロボロでとても住める状態ではなかったが、そこは鬼の若い衆が来て一気にリフォームを仕上げた。
時折、年かさの鬼の姿もあったので、応接間よりは手間がかかったのかもしれない、と桜は思った。
しかし鬼たちはパワーで押し切って、古民家というよりも崩れかけた一軒家を実質一ヶ月ほどでスピーディに住める家へと仕上げた。
鬼のパワー半端ねぇ、と桜は思った。
パワー半端ない鬼のなかでも、魁は謎めいている。
(あ、今日はワンピースだ)
引っ越しの挨拶で鬼頭家の母屋を訪れた魁は、白いワンピースを着ていた。
ふわふわしていてウエストあたりをキュッと絞っているロング丈のワンピースは、魁にとても似合っていた。
だが桜には疑問に思っていることがあった。
「どうして魁さんは、女装をしているのですか?」
女装することは別に悪いことではないが、純粋に不思議だと思ったのだ。
桜にとって筋肉バリバリ、角バリバリの状態の魁もカッコよく見えた。
それに魁は美人なだけで男装が似合わないようには思えない。
なのにわざわざ動きにくそうで着ていて苦しそうな装いをしている魁が不思議に思えたのだ。
魁は頬をポリポリと掻きながら言う。
「あー、僕は鬼の里でも強すぎるんだよね。体も大きいし、力も強いうえに、成長が早くて力加減も上手くできなくてね。それで問題ばっかり起こしちゃって……」
「えー魁さんが⁉」
「ン。それでね。女装をして、力が弱い状態になるよう体を小さくして暮らしているのです」
桜は目を丸くして魁を見た。
「でもいまは力加減上手ですよね?」
「昔に比べたらね」
「だったら男性の格好に戻してもよいのでは?」
桜の言葉に魁は首を傾けた。
「そうしてもいいのですが、女性の格好をしていると所作も気になるでしょ? 細かいことを気にしていると、自然と鍛錬ができていいんですよね」
「そう、なんですね」
「それに僕、女性の格好が似あうでしょ?」
魁はその場でクルリと一周してみせた。
白いワンピースのスカートがふわりと広がる。
(確かに似合う。可愛いし、綺麗)
桜がうっとりと見つめていると、後ろで祖父と父がコホンとわざとらしい咳をした。
母が笑顔で愛想よく言う。
「廊下で立ち話もなんだから、部屋の方へどうぞ」
「ありがとうございます」
魁が答える少し後ろでは、真鬼が顔を後方に向けながら肩を揺らして笑っている。
「離れで暮らすからといっても、桜との同居は許さんぞ」
ボソッと祖父が魁へ威嚇のように言えば、「お父さんも同感だ」と父も便乗する。
だが桜は頬をポッと染めて「同居だなんて、そんな……わたしはまだ高校生だし……」とかなんとかいいながらモジモジし始めるし、魁は魁でボッと燃えあがるように真っ赤になるだけで全くの逆効果である。
「魁さまのお世話は、ワタクシがいたしますので、桜さまのお手を煩わせるようなことはございません」
真鬼は銀縁眼鏡の端をピッと揃えた右手の指先で上げながら言えば、桜の母は「あら。ご近所さんなのだから、そこは助け合いオッケーよ?」などと言って自分の夫と父の神経を逆なでした。
「あー、魁兄ちゃん。来てたんだー。こんにちはー。真鬼さんもこんにちはー」
「こんにちは、楽君」
「楽さま、こんにちは。体調はいかがですか?」
「元気だよー。真鬼さんは心配しすぎー」
楽はケラケラと笑った。
鬼の記憶を消されたことを知らない楽は気楽に返しているが、真鬼は後遺症の心配をしているようで楽の体調を気にしていた。
「僕のことを信用してないな?」
「いえいえ、そのようなことは」
事情を知らない楽は、魁と真鬼がコソコソと話しているのを不思議そうに眺めていた。
なんだかんだで桜と魁の契約結婚生活はスタートしたのだった。




