第2話 男前女子、和服美少女を助ける 2
桜が息を呑んで見守る中、ガラの悪そうな男たちは和服美少女の周囲をヘラヘラしながら囲んでいく。
赤、青、黄色と髪色も賑やかな男たちは、それぞれにジャラジャラと飾り立てていて、妙な自信に満ちていた。
「ねぇキミィ~、カワイィ~ねぇ~」
「1人~?」
「暇してるなら遊ばない?」
中途半端に顔立ちが整った身長だけは高い男たちは、妙な自信に満ちていて相手の気持ちなどお構いなしに絡んでいる。
(アレは迷惑ナンパ師集団に違いないっ。これは乙女のピンチっ)
桜は斜め掛けにした黒いショルダーバッグのベルトを左手で掴み、右手に持った軽く包んだ木刀をギュッと握りしめると、肩を怒らせて足早に和服美少女へと近付いていった。
が、不思議なことが起きた。
和服美少女が迷惑ナンパ師集団に二言三言返したかと思うと、魔法のようにヒラリヒラリと舞う彼女の指先で、絡んでいった順番に男たちが風に遊ばれる木の葉のように飛ばされてひっくり返り、地べたに尻をついていったのだ。
(何事⁉)
桜は足を止めて目の前で繰り広げられる光景に魅入っていた。
和服美少女の白くて長い袖がヒラリヒラリと優雅に舞うのに、白い草履の足元はしっかりと地面をとらえている。
白地に朝顔が絡まる和服の袖は、美少女にも男たちにも絡まることなく空に舞う。
柔らかくなびき輝く色素の薄い長い髪も、乱れることなくスルリと解けて肩へと落ちた。
(綺麗)
桜の視線に気付いた美少女がこちらを振り返り、心配ご無用という感じで柔らかく微笑む。
(しかもカッコいい。なんて優美で凛としていて……こういう人を美人って言うんだろうな)
ポワンとして和服美少女を眺めていた男前女子は、ハッと我に返った。
「あっ、あの。大丈夫ですか?」
桜は駆け寄りながら和服美少女に声をかけた。
「うふふ。僕は大丈夫。気にかけてくれてありがとう」
その声は思いのほか低くかすれている。
不快感はなく、むしろ桜の耳を蕩かす響きのある声だ。
(あっあっあっあーーー⁉ 女子ではなく、男子だった⁉)
桜は焦りながら、自分よりも少し高い位置にある和服美少女改め和服美少年を見つめた。
(えっえっ⁉ こんな綺麗な男子がこの世にいていいの⁉)
スラリと背が高い美少女だと思った和服美人は、少し背が低めの美少年だったようだ。
「驚かせちゃった? ごめんね」
「……い、いえ、とんでもない。あの、ほんとに何ともないですか?」
「ふふ。大丈夫」
ふわっと笑う和服美少年に、桜はボーッとなった。
(毛穴がないっ。思春期の問題児、毛穴はどうなってんの、毛穴っ。ああ、こんなに綺麗だと毛穴も恥じらってどっかに消えるのか⁉)
和服美少年は桜から地面へと視線を移して呟く。
「彼らも大丈夫だと思うけど……やり過ぎちゃったかな?」
桜も地面へと視線を移すと、あたりにナンパ男たちから散らばっていた。
(特に怪我をしている様子もない。アスファルトとコンクリートの地面とはいえ、突起物だってあるのに。怪我をしないように上手いこと投げてる。咄嗟にこんなことできるなんて凄いなぁ)
ナンパ師たちは怯えた表情を浮かべ、尻で地面をずりながら後ずさったかと思うと慌てて立ち上がり走り去っていった。
(こんなに綺麗な上に強いとかっ。天はこの人にどんだけ与えたんだっ)
奇跡のような美人を目の前にして、桜は心密かに感動で打ち震えていた。
桜の感情は表情や態度に現れやすいため、外から見ても彼女が感動していることは丸わかりだ。
和服美少年は一瞬驚きに目を見開いて、次の瞬間にはクスリと笑った。
そして着物の袂を優雅におさえると、白く長い指でバスを指さし口を開いた。
「あなたは、あのバスを待っていたのではありませんか?」
「あっ!」
我に返った桜はバスを見ると勢いよく向きを変えた。
(あのバスを逃したら、次は一時間後だっ!)
「気を付けてね」
「はいっ。ではっ」
桜は和服美少年に軽く頭を下げると、慌ててバスへと向かって駆けていった。




