第19話 鬼は桜に恋をする
(僕が鬼の姿でも受け止めてくれた――――)
魁は胸の高鳴りを止められない。
里での魁は無敵だ。
守ることはあっても、守られる側に立つことはまずない。
(僕は力が強いからと女装させられていて……それはそれで嫌いじゃないけど、皆は鬼になった時の僕を知っているから女扱いされたことなんてないし……守られるって、こんなこそばゆい感じ?)
魁は強く、未来の長で、里での影響力は強い。
人間との平和な共存のために鬼頭家との契約結婚を進めようと魁が提案したときには、反対意見がほとんど出なかったほどだ。
人間が鬼を嫌うように、鬼の中にも人間を嫌うものは沢山いる。
魁の提案に強く反対する者が出ても不思議はなかったが、不自然なほど反対意見はでなかった。
里での魁は無敵ゆえに煙たがられる存在だ。
反対意見を出さずに、反対派を水面下で束ねて打って出ることで、魁を追い落とそうとする者が出るのは自然なことだった。
(不意打ちされたからって、負ける気はしないけどね)
だから反対派の鬼たちが鬼頭家の応接室へ襲撃しに来た時、日本刀を片手に襲撃してきたのだ。
鬼に金棒とはいうけれど、基本的には武器など必要としない。
それが鬼だ。
(僕の爪は凶器なのに。牙だってあるし……腕だって棍棒みたいで全身が凶器みたいなもんなのに。桜さんは、そんな僕を抱きとめてくれた。怖くないって言ってくれた)
着物を破きながら鬼になっていく魁に怯えることなく、しかもフェロモンで弱体化してよろめいた体を抱きとめてくれた桜に、魁は恋をした。
恋をしたのは最初に桜を見た時からかもしれないけれど、そんなことはどっちでもいい。
(僕は強いから、いざとなったらもちろん桜さんを守るけど。でもでも。あんなことされたら好きになっちゃうよ。しょうがないじゃないっ)
桜が貸してくれたグレーのスウェットもいい匂いがする。
(桃みたいないい匂い。封印花嫁の持つフェロモンなのは分かってるけど、いい匂いだと思ってしまうのは仕方ないじゃないか)
魁は優しげな見た目とは違って、計算高くて油断のならない無害とは言い難い食わせ者であるという自覚はある。
それは次の長となる者にとって必要なスキルだ。
だが桜の前にでると、食わせ者の仮面が外れてしまいそうになる。
(これは契約結婚っ! 契約結婚だからっ! ……でも、契約結婚だからって、契約結婚のままでいなきゃいけないってわけでもないよね……あ、ダメ。それはダメだ。まだ桜さん、18歳の女子高生なんだからっ)
魁の中にある感情は、なかなかの暴走ぶりをみせていた。
冷静で凛とした雰囲気を湛えた美少女風鬼の外面は保ったまま、魁は初めての恋に翻弄されている。
その雰囲気を読み取ることができた真鬼だけが、主に隠れて楽しそうに肩を震わせているのだった。




