第1話 男前女子、和服美少女を助ける 1
暑い。
(煮える。これだから街中は苦手だ)
建物から出れば、うだるような夏の暑さに満ちている。
フル稼働するエアコンの排熱と、照り付ける太陽の直撃、そして地面からの照り返し。
(でもバスに乗るには、ここを通るしかない)
鬼頭桜は、うんざりしながら白いスニーカーを履いた足を動かした。
(あっ、信号が赤に……)
パカパカと色を変える青信号に気付いたが、走る気にもなれない。
桜は大人しく信号で止まり、肌に張り付いた白いTシャツをパタパタと仰ぐように自分の体から離しながら、なんとなく周囲を見回した。
高校三年生である桜は、高校生活最後の夏休みを満喫していた。
今日の午前中は久しぶりに街へと買い物へ出かけてきたのだ。
(街中は嫌いだけど……今日はいい木刀が手に入ったから、まっ、いいか)
桜はホクホクしながら右手に持った荷物を撫でた。
剣道を嗜んでいるというわけではないが、自宅の敷地が広いので、桜は木刀や竹刀を振り回すことをストレス解消のための趣味にしている。
(この間、木刀を岩に当てちゃってダメにしちゃったんだよねぇ。まぁアレは古かったし。ちょうど買い替え時だったんだよ。あとはバスを待って帰るだけ~)
スレンダーな体に白いTシャツを着て色が少々褪せたジーンズをはいた桜の姿は、ぱっと見、女子高生には見えない。
身長は168センチほどあってスラリと背が高い桜は、ボーイッシュな体型だ。
よく見れば艶やかな黒髪もショートカットにしているし、目鼻立ちはくっきり整っていて、黒い瞳のはまった目は大きいがスッキリしている。
そもそも女性には見えない桜ではあるが見た目はそれなりに整っているので、女性たちの熱い視線を集めていた。
むろん本人には、女性からモテているという自覚はない。
自宅敷地内の野山を駆け回り、棒切れを振り回して育ち、腕っぷしにはちょっと自信のある桜は、女性にしては力がある。
なので視線を感じると【力仕事ですか? お手伝いしますよ】という気持ちで振り返る癖があった。
友人たちには罪な行いだから無視するように、とアドバイスされているが、長年の癖は直らない。
だから彼女には、視線を感じると振り返る癖がある。
その時も、桜は確かに視線を感じた。
振り返った先にいたのは和服を着た美少女だ。
(うっわ。可愛い~)
桜は可愛いものや綺麗なものも好きだ。
視線の先には、桜が今まで見たこともないほど綺麗で可愛い美少女がいた。
(浴衣……いや、違う。アレはもっとちゃんとした和服。夏物の和服だー。きれーい)
美少女は女性にしては背が高く、髪の色が金に近い茶色で肌色も白い。
(ハーフか、外人さんかな? 鼻も高いし顔立ちも整っていて……あー、でも美人系というよりも可愛い系? いかにも日本人って外見でもないのに、和服は目立つ。しかもこのクソ暑いなかで浴衣でなくて和服っ)
薄い夏生地の着物は、白地に青の朝顔が咲く。
それに紺色の帯を締めている美少女は、白い足袋に草履を合わせていた。
草履も白だ。
(しかも当人、涼しげな表情だよ、素晴らしい! あぁ~華奢で綺麗な子だなぁ~)
小振袖に届くか届かないかという長めの袖が風に揺れている。
(熱風だけど)
軽やかに揺れる袖も、風に遊ばれるツヤツヤの髪も美しい。
(まさに美少女)
その美少女へ、ガラの悪そうな男たちが声をかけているのが見えた。
(アレは……荒いナンパ?)
桜は手入れをしていない黒い眉をキッと跳ね上げた。




