表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/25

第25話 三つの願い




フィリアーネは一人だった。


森のシェルター。沢のせせらぎ。焚き火の残り香。侍女はいない。誰もいない。


沢の水面を鏡代わりにして、フィリアーネは髪をかき分けた。


額の中央に——角があった。


黒くて、硬くて、冷たい。親指の第一関節くらいの長さ。


「……このクリスってやつ、もう少しマシなデザインにできなかったの」


フィリアーネはため息をついた。


角は小さい。髪を蓬に整えれば隠れる。だが——今後は注意が必要だ。誰かに頭を触られたら終わり。風が強い日は帽子が必要かもしれない。


水面に映る自分の顔を見つめながら——フィリアーネは、あの洞窟でのことを思い出していた。


クリスとの取引。


あの時、何があったのか。


◇◇◇


——悪魔の僕が提示した選択肢を、全て断った後。


千紗の心の中には、一つだけ——本当に欲しいものがあった。


魅惑の瞳? 要らない。


竜の心臓? 要らない。


読心術? 要らない。


富も、禁術も、不老不死も、飛行能力も——全部要らない。


じゃあ、本当に欲しいものは何だ?


その時、千紗は——本当に、心の底から、叫び出したかった。


——帰りたい。


——元の世界に帰りたい。


——日本に。あの六畳一間のワンルームに。美咲がいて、コンビニがあって、スマホがあって、漫画があって——何もかもが普通だった、あの世界に。


この世界は確かに面白い。魔法がある。精霊がいる。イケメンの王子がいる。ファンタジーの世界だ。


だが——ここは、千紗の家ではない。


だから、千紗は慎重に聞いた。


『ねえ、クリス。あなた、空間魔法は使える?』


◇◇◇


『空間魔法?』


クリスの異形の瞳が、僅かに細くなった。


『……なぜそんなことを聞く?』


『興味があるの。空間魔法で——別の世界に行けたりする?』


沈黙が落ちた。


『空間魔法は——知っている。理論も知っている。使い方も知っている』


千紗の心臓が跳ねた。


『だが——使えない』


『……なぜ?』


『私はここに幽閉されているからだ』


クリスの声に、苦々しさが混じった。


『もし空間魔法が使えるなら、とっくにここから逃げ出している。三百年も、こんな洞窟に閉じ込められてはいない』


——終わった。


帰る希望が、完全に消えた。


『……そう。分かったわ。じゃあ、別の願いにする』


『何が欲しい?』


『わたくしの魔法感応力を上げて。周囲の魔力を感じ取るアンテナが欲しい』


クリスは——笑い出した。


『ケケケ! 簡単すぎる願いだな! ——いいだろう、叶えてやる』


そして——額に角が生えた。


『お前の願いはあまりに簡単だった。だから——おまけをつけてやろう』


『おまけ?』


『予知の魔眼だ。お前に危険が迫った時——数秒先の未来が見える』


◇◇◇


——回想が途切れた。


フィリアーネは沢の水面を見つめていた。


額の角。予知の魔眼。クリスとの取引で得たもの。


目を閉じて、深く息を吸った。


両手を広げて、周囲の魔力を感じ取ろうとした。


——以前とは、全く違った。


全てが——くっきりと、感じ取れた。


フィリアーネは手を伸ばした。沢の水が持ち上がり、掌の上で小さな氷の球が形成された。


『……これが、魔法……感覚が、全然違う』


だが——フィリアーネの手は震えていた。


角と魔眼のことではない。


別のことを——思い出していた。


◇◇◇


第三演習場で起きたこと。


ルートヴィヒとセヴェリンの決闘。石壁の陰に隠れていた。深紅の兵士に見つかった。銃口を向けられた。


——そして。


リーリエが飛び込んできた。


フィリアーネを庇って。


背後から撃たれた。


血が——金色の髪を染めていった。


◇◇◇


全部本当だったのか?


全部本当だった。


フィリアーネの頭が——激しく痛み始めた。


深い場所から何かが這い出そうとしているような痛み。目の前が暗くなった。暗幕の上を青紫色の蛇が無音で這い回っている。蛇たちの向こうで——燦然と輝く黄金の瞳が開いた。


鐘の音のような声が、耳元で響いた。


『——交換するか?』


交換? 何を交換する?


だが——ぼんやりと、ある欲望が答えたいと思わせた。答えれば何かが変わる。答えた瞬間、何かが——


何を変える? 何が間に合う?


リーリエが死んだ。目の前で。救いたかった。でも——そんな力はない。


◇◇◇


明白了!简洁、轻小说风格:


---


## 修改版


◇◇◇


「わたしたちの勝ちよ! レーヴェンクローネ!」


赤い髪の女——ヴァネッサが叫んだ。


確かに彼女の勝ちだった。ルートヴィヒもセヴェリンも戦場を離れられない。ヴァネッサが白銀の拠点に歩いていけば、このゲームは終わる。


まるで黒と白が終盤を迎える直前に、説明のつかない赤い駒が「劫」の位置に現れたようだ。


ヴァネッサの歓声は長くは続かなかった。


銃声。


彼女は信じられないという顔で振り返った。


フィリアーネの手には——魔導銃が握られていた。


◇◇◇


フィリアーネは魔導銃を捨て、倒れた狙撃手の大口径狙撃銃を拾い上げた。


「部外者は退場しろ! これは——」


ルートヴィヒの言葉は途切れた。


弾丸が胸を撃ち抜いた。彼はよろめき、仰向けに倒れた。


◇◇◇


セヴェリンが振り返った。


「雪走」を捨て、両手を挙げた。


「——ゲームは終わりだ。俺の負けでいい」


フィリアーネの骨格が機械のように動いた。遊底を引く。弾丸が薬室に滑り込む音。指が引き金にかかる。


もう何も考えない。ただ——命令に従うだけ。


弾丸が銃口を離れ、セヴェリンの胸を貫通した。


血の花が飛び散った時——フィリアーネの顔には、重荷を下ろしたような表情が浮かんでいた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ