#5 甘い部屋への侵入者
柔らかな光で目が覚めた。
まだ眠い目をこすりながら隣を見ると、アラタが穏やかに寝息を立てていた。
長いまつ毛、キレイな顔。まるで彫刻みたい。
柔らかな自然光がアラタの白い素肌を照らしていた。 まるで、あの美容雑誌の表紙から、そのまま出てきたような姿。
触れたいと思っていた存在が、目の前にあるなんて。
「夢じゃない」
小声で呟き、無意識にその顔に手を伸ばした。
「おはよう」
「わぁ!」
慌てて手を引っ込める。恥ずかしさと動揺で心臓がバクバクする。
低く甘い声に胸が高鳴り、思わず視線をそらした。
「寝てる俺にイタズラしようとした」
「ち、ちがいます」
「触ってくれても構わないよ。ほら、こんなふうに」
アラタの長い指が、シーツの下で私の太腿をそっと撫で上げた。指先が私の最奥、まだ少しひりつくような場所に触れる。
「やっ」
「朝から欲しがりだね」
アラタの指先が、いたずらに最深部をえぐるように動いた。
「あんなにイッたのに、まだ足りない?」
予告通りアラタは長い夜を堪能した。
トラウマだなんて、嘘かと疑うほど猛っていて、私を何度も求めてきた。でもそれ以上に、アラタを求める自分に驚いた。
まだ、熱が冷めない。それどころか、またしてと全身が一瞬で火照り、体内の蜜は溢れ出す。
「も、もう……やめてください……!」
思わず声が出る。身体は昨夜の過剰な快楽を覚えていて、触れられるだけで勝手に疼いてしまう。
「ほら、我慢しないで」
「や、や…っん!」
限界を迎えそうになったその時――。
サイドテーブルに置かれたアラタのスマホが、無機質な振動を上げた。
「邪魔者め」
アラタはスマホの画面をチラッと見ると、冷ややかな笑みを浮かべた。
「で、出ないんですか?」
「まぁ、ね」
電話が鳴り止むと、今度は――。
ピンポーン
ホテルの部屋のチャイムだ。心臓が凍りつく。
「え、アラタさん、まさか週刊誌とか?」
アラタはマスクも帽子も被らず、ホテルのラウンジから部屋へ私と歩いた。誰かに見られていても不思議じゃない。
「記者の方がよかったかもね」
「え?」
コン、コン、コン!
さらにドアを執拗に叩く音が響く。
「はいはい、ちょっと待っててよ!」
アラタは楽しそうに笑うと、乱れたバスローブを羽織り、悠然とドアへと向かって行く。
え、嘘でしょ?誰だか知らないけど開けるの?私、真っ裸なんだけど……。
「おはよう、愛香。ぐっすり眠れたか?」
招き入れられた男の声を聞いた瞬間、全身の血が引いた。
「な、なんで克哉が……?」
「無断外泊はよくないな。愛子叔母さんが心配してるよ」
克哉が私を見下ろす。その瞳は、私が昨夜誰に、どのように暴かれたかを、すべて透視しているようだった。
「どうした? そんな、イモムシみたいにシーツにくるまってさ」
クスッと笑う。
「着替えを持ってきたよ。シャワーを浴びたら帰ろう」
紙袋をベッドサイドに置く克哉。
中には、私が愛用しているブランドの新品の下着と服が入っていた。サイズも、好みも。何一つ逃さず把握している、過保護なイトコ。
「汚れた下着は、捨てて帰ろう」
その笑顔に背筋がゾクッとする。
「まさか、盗聴なんてしてないだろうな」
アラタがわざとらしく挑発する。
「失礼なヤツだな。オレは法を犯すことは絶対にしないさ」
「そうだといいけど」
克哉は知っている。
私が昨日、どんな声で泣き、どんな風に絶頂を迎えたのか。理由は分からないけど、そんな気がしてならない。
克哉は大事な、優しいお兄ちゃん。けれど、その愛は息が詰まるほど重く、歪んでいる。
「シャワー、浴びてくる!」
私は震える手でシーツを身にまとい、ベッドから逃げ出そうとした。けれど、ベッドの端に足をかけた瞬間、背後から克哉の大きな腕が伸び、私の身体を軽々と宙に浮かせた。
「……っ、克哉!?」
「昨夜の熱が身体に残っていてうまく歩けないだろう?」
克哉にお姫様抱っこをされる。
「ちょ、ちょっと、下ろして!」
「なぁ、アラタ。昨夜の愛香は、期待通りだったかい?」
克哉は私を抱いたまま、ソファに座るアラタに視線を向けた。
「そうだね」
アラタはバスローブの襟を正しながら、ふっと唇を緩める。
「……最高だったよ。誰かさんの教育がいいおかげかな」
「それはよかった。オレが丹精込めて管理してきたこの肌の質感、お前なら違いが分かっただろう?」
克哉は満足げに目を細めた。
「ちょっと克哉!誤解を招くような発言はやめてよ」
「どこがだ?」
「愛香の疲れは、あとでしっかり癒してやるよ。とにかく、今はシャワーが先だな」
克哉はそう言うと、私を抱えたまま、迷いのない足取りでバスルームへと向かった。
視界の端にアラタが入る。さっきまでとは違う、ガラス玉のような瞳で窓の外を見ていた……。
重厚なドアが閉まり、タイル張りの密室に閉じ込められた。そのまま壁一面の大きな鏡の前に私を降ろす。
「まったく、こんなに痕をつけられて」
克哉の冷たい指先が、シーツの隙間から覗く私の首筋や、胸元に散らばった真っ赤な吸痕を、検品するかのように丁寧になぞる。
「もう、出ていって!」
背中を押してバスルームから追い出そうとするが、克哉は愛おしそうに私の頬を撫で、甘い声で囁いた。
「お疲れ様、愛香。アラタを救ってくれてありがとう」
dulcis〈ドゥルキス〉のメンバー、コウキの物語はアルファポリスで連載してます。
なろうでも掲載予定ですが、よければのぞいてください♪
https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/595936588




