#10 診療室での秘め事
「俺よりケイタがいいなんて、二度と言えないように、その唇を塞いでおこうか」
アラタの低く甘い声が、V.I.P.診療室の静寂を震わせたそのまま強引に唇を奪われ、彼の熱い体温が重なった。
「この前とは、違う香水……。いい香りですね」
「よく気づいたね」
アラタは私の唇を親指でなぞりながら、満足げに目を細めた。
「俺がプロデュースする香水の試作品。愛香ちゃんをイメージして作った香りなんだよ」
「私を……?」
ふわりと鼻を抜けるのは、清楚な白い花々の奥に、熟れた果実のような密やかな甘さが隠れた香り。
「表向きは『ピュアな初恋』なんてコンセプトだけど、本当は違う。ずっとこの香りで君を包んで、俺だけのものにしたい」
アラタは私を背後から抱き締め、髪に鼻を寄せて、彼自身の執着を私へと深く移し込むように熱い息を吐いた。
「全部、俺のにしたい」
制服のボタンがひとつ、ふたつと外されて、胸元に長い指が滑り込む。
ピクリと身体が震えると、アラタの指はそれを楽しむようにさらに遊び始めた。
狭い診療ベッドの上では、逃げ場もない。
「ほら。次はどこがいい?言ってごらん」
耳元で囁かれる掠れた声が、脳髄を直接揺さぶる。
「……っ、あ……」
「何がほしい?愛香ちゃんの口から聞きたいな」
彼はわざと動きを止め、私の反応を楽しむように見つめてくる。
「それとも、こっち?」
焦らされるもどかしさに身体をよじると、彼は意地悪く笑って、私の白い鎖骨に深く歯を立てた。
「や、んっ!……アラタ……っ」
「俺の名前、もっと呼んで。……ほら、ここ?」
思考が甘い泥のように溶けていく。
アラタが私を想って調合した香りに全身を支配され、彼とひとつに溶け合っていく感覚。
抗いようのない悦びの波に何度も飲み込まれ、私はただ、このまま壊れてしまいたいと願うほど、狂おしい恍惚の中に沈んでいった。
アラタは私の髪を愛おしそうに指で梳きながら、満足そうに微笑む。
そして、私の額に優しくキスを落とした。
「愛香がここでのぞき見したときと、同じことしようか?」
「意地悪……」
「すごく感じてるくせに」
「や、んっ!」
翻弄される指先に、再び身体が熱を帯びる。
そうして、抗えぬまま最頂点へ導かれる――。
激しい余韻の中、重なる吐息だけが部屋に響く。
アラタは汗ばんだ私の背中を大きな手でなぞり、壊れ物を扱うように、けれど逃がさないように強く抱き寄せた。
「この香りが消えないうちに、また俺で上書きさせて」
「独占欲、強すぎです」
「克哉といい勝負だろ?」
アラタは私の指先にそっと唇を寄せ、満足げに目を細めた。
部屋に充満する香り。
アロマの香りに彼の執着が溶け合い、私は深い幸福の中で、再び彼に身を預けた。




