第97話 結婚式
そんなわけで、アレクサンドラ殿下が、国中を揺るがすような派手な式を挙げて隣国へ去った後、フィリップ殿下とハンナは地味な結婚式を挙げた。
地味にとはいっても、そこは第二王子の結婚式。式場は、アレクサンドラ王女殿下と隣国の皇太子の仮結婚式を挙げたのと同じ聖堂だった。(王女殿下の本式は隣国で行われた)
この聖堂では、王家以外の結婚式は基本やらない。格式の高い聖堂である。
噂が噂を呼んで、呼ばれたい人が大勢いたようだが、親族以外では親友のマチルダ嬢とリリアン嬢以外は招待されなかった。
ダリア嬢とバイオレット嬢が招待しろと乗り込んできたときは、本当にびっくりしたが、ハンナ嬢は丁重にお断りした。お友達じゃないし。この二人はヒルダ嬢の結婚式に出るだろうから、そっちで十分だろう。
出席して欲しかったアレクサンドラ殿下は、出席がかなわなかった。寂しい。
「いつか隣国に行こうよ。もう王子じゃないし、自由だ。きっと歓迎されるさ」
国王夫妻も出席した。集まったのは数十人そこそこ。規模こそ小さいが、選りすぐりの人士しか招ばれなかった。
大聖堂の方ではなく、日当たりのいい小さい方の聖堂で式は行われた。入り口や参列者用の椅子にはふんだんに花が飾られていた。真ん中にはバージンロード。
ハンナは緊張気味の父の腕にすがって、会場へ入っていく。
天気が良い日だった。窓から陽光が降り注ぎ、ほぼ全員が顔見知りという会場は、祝福の微笑みで満たされた。
極めつけは、入場してくる花嫁のティアラに日光が当たった時だ。
王家から借りたティアラは、大小さまざまのダイヤモンドで飾られていた。
それが、陽の光を受けて、突然キラキラと虹色に輝いた。
フィリップ殿下は思わず立ち上がって、一歩前へ花嫁を迎えに足を踏み出した。
その結果、光の差し込むバージンロードに降りてしまった。
今度は殿下の金髪がきらめいた。
国王陛下はじめ、参列者はちょっとどよめいた。
なんてきれいな花嫁と花婿だろう。
距離が近いこともあって、二人の表情もよく見えた。
しあわせそうだった。
結婚とはこうあるべきだなと、あとになって国王陛下が王妃様に漏らした。
この先の長い人生を支え合って生きていく人を見つけたのだ。もう孤独ではない。
ただし、式が終わり、その後の何やかやも全部終わり、礼拝堂を出ようとしたら、外は空模様が怪しくなり小雨が降り出した。
「フィリップ、まさか、あなた」
ハンナは咎めるような表情になった。
「違うよ。僕が決められるわけではない」
今は公爵となったフィリップがあわてて否定した。
「ああ、でも、祝福の雨かも知れないわ」
ハンナは空を見上げた。参列者は笑いながら急いで自分たちの馬車へと急いだ。
「僕たちも急ごう」
二人は手を取り合って自分たちの馬車へ急いだ。
母のハミルトン夫人が手を振った。
マチルダとリリアンも何か叫びながら、手を振った。
フィリップ殿下とハンナも手を振り返して、馬車に乗り込んだ。
「新居へ!」
「こんな格好のまま、馬車に乗ってしまったわ」
ウェディングドレスは何とか雨から無事だった。
「侍女が何とかしてくれるさ」
フィリップが馬車の中で急にハンナを抱きしめてキスした。整えられた金髪が乱れて幾筋も顔にかかっている。口元は笑っている。でも、目は怖い。
「ああ。これで全部僕のもの。やっと。やっとだ」




