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セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記  作者: buchi


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第92話 年間ゴシップ大賞

主人の公爵夫妻は、客間にいた。

例の仲が悪い事で有名な夫妻である。


無論、例のメイドと馬丁は出席していない。

代わりにジョージが立っていた。跡取り娘のヒルダ嬢と一緒に。ヒルダ嬢より一歩下がって入り婿という形を明確にしていた。しかし公爵夫妻のすぐ後ろに立ち、背筋をピンと伸ばし、誇らしそうだ。


婚約披露と招待状にも婚約が決まりましたのでと書かれていた。正式に婚約するつもりなのだろう。


ハンナは口から魂が抜けそうになった。

こんな会、体調不良で断固拒否すればよかった。


王都社交界の年間の話題(ゴシップ)賞とかいうのが、もしあったら、ぶっちぎりでナンバーワンに輝きそう!


前の婚約者ハンナを地味だとかなんとか因縁をつけて婚約を白紙に戻し、公爵家の入婿というタイトルを獲得したのである!

そこへ、婚約破棄されたハンナが、もっとお値段の高い新しい婚約者を連れて参加する。鼻息荒く、どうよ? みたいな?

うん。年間ではなく五十年に一度の話題賞大賞くらい取れそうだ。



来客は皆、公爵夫妻にあいさつする。


「フィリップでございます」


「ようこそお越しくださった」


公爵は大歓迎した。


歓迎する? 普通。

公爵は横のハンナには気が付いていないのだろうか?


フィリップ殿下は、ニヤリとした。

ハンナは息を呑んだ。微笑むだけにすればいいのに。どう見ても悪意的な微笑みだわよ!


「婚約者のハンナ・ハミルトン嬢でございます」


公爵夫人のたるんだ目が鋭くハンナを見た。


ハンナは反射的にスッと背筋を伸ばした。そして正式に礼をした。


ハンナの家とスプリンバーグ家は同じ貴族でもジャンル違い。

あちらは由緒正しい旧弊貴族。ついでに貧乏派閥。

こちらは由緒には拘らず、自由闊達な裕福貴族。

付き合いはない。したがって、どこかの茶会で会うこともなく、今回が初対面だった。


しかしさすがに公爵家。


「そうか。どうか楽しんでいくように」


鷹揚。

しかし、公爵夫妻の背後から、ヒルダ嬢があっと言うような顔をしていた。ハンナに気がついたに違いない。


「ありがとうございます」


間髪を容れず、返事をしたのはフィリップ殿下だった。


そして、すぐに公爵夫妻から離れていった。


「あれ、僕がフィリップ王子だと気が付いてないから」


「えっ? まさか?」


「公爵夫妻は目が少し悪くてね。それに、僕はあまり公爵家のお誘いに乗ったことがない。それに、この間まで、ずっと変装してたから」


「お小さい頃からの知り合いなのでは?」


親戚だけど、あまり付き合いがなくてと、フィリップ殿下はハンナの家と同じようなことを言いだした。


「母がね、ちょっと。公爵夫妻のあり方は、教育上よろしくないと」


でも、ヒルダ嬢は、絶対気が付いていた。何か起きるかも知れない。


公爵家が呼んだ、公爵家が親しい人たちばかりなのだ。そんなところへ、最初は婿にと計画していたが、うまくいかなかった王子がくるとは!

嫌がらせにも程があるではないか!


「大丈夫だよ。僕、王子だし」


甘いっ!


「大体、帰国以来ずっと変装されていたではありませんか。王子殿下だと誰も認識してくれないかも知れませんわ」


ダメだった。フィリップ王子はさらにもっとニヤリとした。


「いいじゃないか。そうなったらそうなったで、それ相応の報いがあるってものさ」


え? 王子様だから? ものすごい強気なんですけど?


ひるむハンナをグイグイと引きずって、フィリップ王子は華やかに進む。


フィリップ王子殿下は目立つ。とにかく目立つ。見かけない美貌の若い貴公子に人々の好奇の視線が注がれる。むろん、隣のハンナにも。


仕方ない。ハンナは出来るだけ王子にふさわしいように、後で王子だとばれた時、非難されないように、気品ある、そして当然ですわよ的な何かを醸し出したいと念じながら、後をついて行った。


幸いなことに、園遊会のその日は天候がよかった。

王都にあるのに、公爵一家は、立派な庭付き宮殿に住んでいた。

建物内に限られるより、庭園込みの方が人口密度は下がる。人に会う頻度が下がるとハンナは期待したが、そんなわけにはいかなかった。

なぜなら、標的目指して殿下が突き進むから。


標的とは、予定来場者全員にあいさつし終わったあと、華やかに公爵家の跡取りとして、会場に繰り出したジョージとヒルダ嬢のことである。


公爵夫妻は、肩の荷を下ろしたと言わんばかりに、のんきに腰かけていた。

公爵は腰が悪いという触れ込みであり、公爵夫人は腰が重いので有名だった。

自分たちが開催した園遊会でも、あちこち歩き回って談笑するなどと言うことはお断りなのだ。


「全員お越しいただいたと聞いたが、フィリップ王子殿下にはお目にかからなかったような気がする」


「そう言えば、気が付きませんでしたわね?」


「まあ、いまさら婚約をお願いしたいと言われても困るから、欠席でちょうどいいんだがな」


全員に新婿のジョージの紹介をしなくてはならないところだったが、この二人は時々それを忘れていた。

そのたびに、ヒルダ嬢か、ジョージ自らが注意を促していたのだが、フィリップ殿下の時は、公爵が度忘れしていたのをこれ幸いと二人を無視した。


無視されて黙っているフィリップ殿下ではなかったと言う訳だ。


本日の主役は、ヒルダ嬢とその婚約者に定まった逆玉ジョージである。


ヒルダ嬢は誇らしげに、精いっぱい着飾り、ジョージも磨き上げてなかなかの男前に仕上がっていた。

公爵家と友人関係にあるか、少なくとも敵対するような家は呼ばれないので、参加者全員が若い二人を祝福していた。


「でもさ、ジョージのやつの得意顔、ムカつくよな」


他人が勝手に幸せそうにしているのである。放っておけばいいものを、なんでチャチャを入れに行くのか。

ハンナは、フィリップ殿下を必死で止めようとした。


「気にしなければムカつきませんわ」


「婚約を白紙にして、公爵家の跡取りになりあがったんだぜ。長男のくせに、公爵家の方がいいからって。気に障る野郎だ」


「なんとか婚約を白紙に持ち込もうと、散々手を尽くしたのはあなたじゃありませんか」


ん? と、ばかりに殿下はハンナ嬢を振り向いた。


「お似合いの二人じゃございません?」


急にニコッと笑って殿下は言った。


「僕たちほどお似合いじゃないよ。あいつはあなたをバカにしたんだ。それに僕の方が偉いんだ。思い知らせてやる」


ヒルダ嬢とジョージの周りには人だかりができていた。ジョージは得意満面。ニコニコと微笑んでいた。


「やあ。ジョージ」


呼び捨て。

公爵家の跡取りと決まったジョージは今、この場にいる誰よりも身分が高くなる見込みに酔っていた。

誰よりも高位貴族になるのだ。(婿だけど)

そのジョージを呼び捨てにするとは、誰だ?






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