第87話 進展
「成功したようですわ!」
公爵家の台所の窓には、びっしりと貴婦人方が張り付いていた。
「ハンナったら、後ろへ後ろへ後退さるのですもの。全然、見えないわ」
こういったのは公爵夫人のマーガレット様である。
「殿下も押しが強すぎるのか、壁際までハンナ嬢を追い詰めていますね。全然見えませんよ」
振る舞われたパイのカケラを口髭に付けたまま、カーク卿が言った。
あのまま、事情説明の為、台所へ連行されたのである。
なんで、客間や書斎でなく台所なのか腑に落ちなかったが、ガゼボを看視するのに最も好都合だからだと説明されると、喜んで監視体制陣に加わった。
「椅子がひっくり返っていますからね。べったりくっついているに違いありません」
カーク卿が断定した。
そして夕方。
カーク卿とマーガレット夫人、それから最恐兵器伯爵夫人は、ガゼボに踏み込むことにした。
「長時間過ぎるわ」
「ナニをしているのかしら?」
「大丈夫なんでしょうね? カーク卿?」
ギンギロリンとラッセル公爵夫人からにらまれたカーク卿は震え上がった。
「は……大丈夫だと……思います」
心なしか不安げなカーク卿。
しかし、ガゼボからは笑い声が起きていた。
「まさか、そんなこと、きっと嘘よ!」
晴れやかなハンナの声。
「違うよ。本当なんだ。行ってみようよ。一緒に行って確かめよう」
「嘘だったらどうするの?」
「あなたが残る」
割りと真剣な様子でフィリップ王子殿下が言った。
「いろんな事が出来ると思う。マルク先生もいるしね」
「マルク先生に紹介してもらわなきゃ。あとミセス・ロビンソンとソワレに会いたいわ」
「きっと歓迎してくれるよ」
ちょっと思ったのと違う。
けど、二人は仲が良いと言った王妃様の言葉は本当だった。
「なんだか楽しそうね?」
「健全ね。残念だわ」
カーク卿は顎が外れるかと思った。健全でいいではないか。何の心配をしていたのだ。
ちなみに、伯爵は招待されていない。公爵もだ。
「でも、まあ、よかったわ。さあ、ここはカーク卿にお任せして、私たちはお茶会に戻りましょう。殿下に節度を守らせてくださいませね」
ぞろぞろと貴婦人たちは客間に戻っていった。
「うまくいったと王妃様にご報告せねば」
「あとでご指示を仰ぎましょう」
カーク卿は、ちょっとだけハンナ嬢が気の毒になった。
味方がいないではないか。
なぜかはとにかく、王妃様まで、どうあってもハンナ嬢を巻き込む気満々だ。そもそもはアレクサンドラ殿下が絶対推奨してこられ、パース公爵夫人が折り紙付きで推薦し、最後に大変にまずかったのが、フィリップ殿下がハンナ嬢との婚約が決まらなかったらこれまでのコスチュームを継続すると脅したのだ。
侍女たちと、なぜか王妃様までが打ちしおれた。国王陛下が心配して、どこか悪いのか尋ねたくらいだ。全く平気だったのはアレクサンドラ殿下くらいだったが、王妃様が「じゃあ、ジークムンド殿下があの格好を始めたらどうするつもりなの?」と尋ねたところ、数秒して、婚約破棄を考えると言い出した。
「ダメじゃない。最愛のジークムンド殿下だって言ってたじゃない」
「でも、あの格好はちょっと……」
「わかるでしょう? あの格好だけは早く止めさせたいのよ。本人があれで満足しているところが問題なのよ」
まともな格好をさせれば、光り輝くイケメンなのに、とブツブツ王妃様は文句を言い出した。侍女たちも涙目で同意した。
「それで今後の予定は?」
確かにおかしな格好だけど、アレクサンドラ殿下はあまり気にしていなかった。肩をすくめたいのを我慢しながら、殿下は尋ねた。
「出来るだけ早く婚約発表をしたいそうなの。あなたの結婚予定の発表の時に、正式に発表するけど、来週に二人であるパーティに参加して、非公式だけど先に発表するんですって」
アレクサンドラ殿下は尋ねた。
「あるパーティ? 誰のパーティなんですの?」




