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セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記  作者: buchi


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第84話 王子様は何もわかっていない

なんだかよくわからないが、数々の難関を突破して、公爵家敷地内潜入に成功したフィリップ殿下だった。


「あちらにおられますわ」


侍女がご丁寧にも教えてくれた。


「かたじけない」


走り出すフィリップ殿下に、あわててついて走り始めながら、カーク殿はようやく殿下に話しかけることに成功した。


「殿下! どこへ行くのです? もし、行先が公爵家の警備兵だったらどうなさるおつもりで?」


「大丈夫!」


全然大丈夫ではないだろう。しかし、数歩もいかないうちに、カークは先ほどの侍女に止められた。


「お付きの方はこちらへ」


「殿下を一人にはできない」


しかし彼は招待客の誰かと思われる、豪華なドレスの婦人に捕まった。


「せっかくご招待しましたのよ。どうぞ、こちらへいらしてくださいませな」


カーク殿は、そのご婦人を見つめた。圧が凄い。


「あああ……殿下」


殿下は屋敷などには目もくれず、庭の中を進んでいく。




そして、彼は、ガセボに着いた。


地味な紺の衣装に身を包んだハンナが、静かに本を読んでいた。


周りには誰もいない。

フィリップ殿下は、胸がいっぱいになった。


なんて細い腰だろう。フィリップ殿下は、うっとりした。

その時、ガゼボに続く道を進む靴音に気が付いたハンナが顔をあげた。


うわあ。目が合った。

どうしよう。

あ、顔をしかめられた。かわいい。


「どうしてここへ?」


吸い寄せられるようにフィリップ殿下は、ガゼボに近づいた。


「あなたは僕との婚約を断ったのですね」


「あら」


ハンナは顔を赤らめた。


「そうではございません。ただ、私には身に過ぎたお話ですから」


「僕のことを嫌いなの?」


キラッキラの王子殿下は、ものすごくイケメンだったし、それだけでもハンナの身に過ぎた存在だった。顔がキラキラの上に今日は服もステキだ。カッコいい。マントみたいに翻している。


この方なら、喜んで結婚なさる外国の王家の姫君がたくさんおられるだろう。


殿下の生涯は、一介の伯爵家の娘とはかけ離れた名誉と格式に満ちたものであるはず。

エリック様の自由な発想は面白くて好きだったけど、王家の格式に縛られた生活は、ハンナには無理だ。


「殿下。仕方がございませんわ」


どう説明すればわかってもらえるのだろう。


飛びつきたいのに、お座りと言われた犬のよう。大型犬種みたい。耳を垂らして、恨めしそうな目つきをする。


王家の手中の玉として、ずっと甘やかされて育ってきたので、きっと、こういったことの重みがわからないのだ。


ハンナはため息をついた。


「殿下。私が畏れ多いと申し上げましたのは、それ相応の理由があってのことでございます。宮廷のどなた様も、同じことをおっしゃるでしょう」


「母上は、いいじゃない! と、言ってくれた」


出鼻をくじかれて、ハンナは、さらにため息をついた。


「それは……殿下のことをかわいがっていらっしゃるからでございましょう。私のような下々の者には考慮しなくてはならないことがございます」


「ハンナ」


殿下は真剣になって言った。


「僕は違うよ」


フィリップ殿下だって、どの王族とも同じだと思う。彼はかわいがられて生きてきた。ハンナもだ。だけど、暮らす世界が違うのだ。


「僕は王都から離れて暮らす」


ハンナは顔をあげた。


「王都での付き合いや、そう言ったことを心配しているなら、それはない」


「何をおっしゃっているのかしら」


ハンナはちょっと悲し気に微笑んだ。

こんな素敵な容貌の王子様はたちまち社交界で噂になって、きっとみんなから思うさまチヤホヤされて、華やかな暮らしをする運命だ。

色々なパーティに呼ばれ、ご身分柄、誰からも敬われ、そしてこの才気だ。

誰からどんな会話を投げかけられても、うまくいなすだろう。必ず称賛を浴びると思う。

黒いカツラと変なメガネ、顔をずっぽりと襟に(うず)めていても、彼の口から洩れる言葉は、変ではなかった。


あの格好を止めさせて欲しい。


エリザ嬢とジョゼフィン嬢の言葉が思い出される。


変な格好さえしなければ、フィリップ王子は王子中の王子様なのだ。


「ですから、きっと王都で華やかに光り輝く素晴らしい生活を送られますわ」


派手で。目立つ。


「人を見た目だけで判断しないで欲しい」


「でも、今日の格好はとても素敵ですけれども?」


「見た目で評価して欲しいと思った」


「気合が入っていますわ。そんなことも出来るのですね。いつもは、カツラとメガネと襟に埋もれておいででしたけど。社交界に今のお姿で出席なされば、さぞや楽しい時間が過ごせると思いますわ」


私には関係ない。殿下にまとわりつくつもりはない。ハンナは思った。

そう思わないわけにはいかなかった。


「ねえ。そんなことに興味はないんだよ」


フィリップ殿下が言った。


「あなたがイケメンを好きだったらなと思いはしたけど、僕は、本当に誰かにチヤホヤされたいとか考えていないんだ。そんなことどうでもいいんだ」






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