第83話 合否基準
その頃、公爵家の門では大騒ぎが起きていた。
「頼もう!」
現れたのは、フィリップ殿下。金のボタンが二列に並ぶカッチリしたコートを着て出現した。
洋品店の店主が、ギリギリのところでOKを出した濃紫の生地で、前の部分が短く後ろがかかと近くまである、半分マントみたいにも見える代物だった。
これを着用したとき、洋品店の女子店員全員がキャーと叫んだ。少なくとも口の中で叫んだ。
背筋を伸ばし、コートの裾を翻し歩く彼は、たとえ髪が華やかすぎる金色だったとしても、男らしくかっこよかった。王家っぽくない。だけど、代わりにどことなく遊び人の風情が漂った。
「行くぞ。ラッセル家」
「せめて黒にすればよかったのに」
後に従いながら、護衛騎士団はつぶやいた。
ラッセル家の門番は当然抵抗した。
「お招きしておりませんが」
「そこを何とか」
何とかもへったくれもない。招かれてもいない家への侵入など許されるわけがない。なんぼ王子殿下とか言っても、無理難題もいいところである。
お付きの護衛騎士団はビクビクしていた。公爵家側に訴えられたら、圧倒的に不利である。王妃様に叱られる……
「そこのお若い方」
そこへ現れたのは、年配の女性だった。身なりからして、侍女のようだ。
護衛騎士団は身構えた。
この女性に見覚えはない。
護衛騎士団は王子殿下に付き添ってあちこち出向いている。ご当主やその夫人の顔くらい知っている。
だが、おそらくは公爵家の侍女ではないかな?
「あなたは合格」
フィリップ殿下の目をしっかり合わせてきた。
「?」
「入ってよろしい。案内します」
「えっ? えっ? では、残りの我々は?」
慌てたカークが尋ねた。護衛騎士団の代表である。
中年の威厳ある侍女は言った。
「不合格」
なんでやねん。そして、どういう基準なの?
「案内してくれるなら、それでよい」
こら、王子。何、勝手なこと言ってくれちゃってんの。
「ご、護衛が必要ですから!」
「公爵家邸内で、何が起きるというのです。招待されてもいないのに、頼もう! とか、一体、あなた方は……」
いえいえ! 私たちは由緒が国内一正しい王子殿下にお仕えしている……これ、バラしちゃダメなやつ。
出来れば、誰とも知られず、公爵家内にお招きされたい。
冷静に考えれば、まるで泥棒の発想である。王妃様に叱られる。ヤバい。
しかし、殿下はスルスルと中に入っていく。
案内されるって、警備の者の所かもしれないでしょう? とんだ恥ですよ?
「お待ちください! ええと、邸内における危険とかじゃなくてですね、あの、その方の言動ですんで! 私もご一緒させて失礼がないように……」
これ、後でフィリップ殿下に叱られるわ。
しかし、効果はてきめんで、件の侍女はニコリと微笑んだ。
「よろしい。合格」
カークはホッとした。
「あなた、なかなかの渋メンじゃないの」
えっ? 判定理由、それだけ? 安全性とかはどうなってるの?




