第81話 一致団結
「恋の病か……しょうがないな」
護衛騎士団にはあきらめモードが広がった。
これが王子を狙うピンク色の平民娘が相手だったら、誰も殿下を応援しなかったかもしれない。
しかし、相手がハンナなので、しょうがないなという雰囲気が漂った。
「うまくいかなかったら、護衛騎士の誰かが責任もってはハンナ嬢をもらい受けますから」
「あ、私が立候補しますので。ご心配なく!」
カーンと言う音がして、本気でフィリップ王子殿下が、そいつの頭を殴っていた。
「グーで殴るだなんて」
「反則ですよ! 殿下。王妃様に言いつけますよ!」
「ハンナ嬢が決めるんだ! 僕の方がイケメンだぞ」
「ハンナ嬢は顔だけで決めるような人じゃないす」
護衛騎士がブウブウ文句を言った。
「ハンナ嬢は、やさしいです!」
「とっても控え目だし」
「なのに、気が利くんです」
「かわいいです」
護衛騎士団は、ハンナ嬢とずっと仕事をしてきた。フィリップ殿下にお仕えすると言う仕事だが。
「一緒に仕事してて、一番よかった」
「なんだろね。仕事を一緒にすると、人柄って出るよね」
「フィリップ殿下、見る目あると言うべきかな?」
「お前ら、そうはいっても、あんなになれるか?」
リーダー役というべき少し年上の護衛騎士が殿下を指した。
殿下は呆然としていた。
「僕だけがハンナ嬢を好きってわけじゃなかったのか」
「みんなが好きですよ、ハンナ嬢」
全員が答えてくれた。
「顔色が読めないって、こういうことだったのか……」
年上の護衛騎士がやさしく慰めた。
「大丈夫。頭がおかしくなっているのは殿下だけですから。ほかのみんなは全員正気です」
「ハンナを狙わないのか?」
「冷静に狙いますから安心してください。まず、パーティ乱入ですね? 次のパーティ会場はラッセル公爵家ですか。難易度高めですね」
ううむとリーダー格の護衛騎士様はうなった。
仮にも公爵家である。国内に幾つもない。
特にラッセル家は、何代か前の王族が叙爵したとか言う王家つながりの家ではない。
ハミルトン家同様、大昔から地元に根差して元からあった家なのだ。
「ハンナ嬢をかわいがっている伯母上の婚家先なのだ」
フィリップ殿下が早口で説明した。
「王族ではないんだ。母上からお願いすることはできない。王家にもあんまり遠慮してくれない」
護衛騎士たちは、色をなくした。なんとなく顔色が悪い。
「ハンナ嬢、あんな地味だからもっと貧乏伯爵家の出身かと思ってた」
「俺たちでは手が出ないじゃないか」
「いや。俺知ってたし。実は、アンドリューに頼んで、婚約者つながりで紹介してもらおうとしたんだけど、ちょっと無理だった」
「そういや、王宮前の大通りをずーっと行ったとこの繁華街の入り口の白亜の邸宅知ってる?」
「うん。でかい宝石店とか入っている邸宅だよね?」
「あれ、ハミルトン家の持ち物」
「え……」
「ヤバ……」
殿下、頑張ってくださいと小さな声が聞こえた。
「でも、ハンナ嬢、ほんと公平って言うか、偏りがないから」
「俺たちでも、気に入られたらイケるかも」
「こら。お前ら。今すぐ行くぞ」
ごそごそ本音しかない会話中だった護衛騎士たちは我に返った。
「どちらへ向かわれますか? 殿下」
殿下は地味な上着を脱ぎ捨てた。
「洋品店だ。スペシャルに王子らしいなりを特注する」
えー? 間に合うかな?
「やかましい。それと、ヘルマンとカーク!」
カークは例の年かさの護衛騎士様の名前だった。
「母上にお願いして、ラッセル家攻略法を聞いてこい」
「母など頼らぬのではないのですか?」
殿下はふんぬっとカークを睨みつけた。
「使えるものは何でも使う。情け無用の総力戦だ。急げ者ども」
護衛騎士軍団は、大急ぎでガッチャンガッチャンと着替えを始めた。鎧兜は基本学内専用である。
「かっこよさげに言ってますけど、行き先、洋品店だろ?」
「者どもとか言っちゃって。戦闘ではないんだけどなー」
「何着てくー?」
「服って悩むよね。鎧兜は支給品だからタダだし楽なんだけど、外出の時は、じろじろ見られるから度胸いるよね」
「やかましい! さっきから本音ダダ漏れだぞ! 早く準備しろー」




