第80話 恋の病
母は頼りにならない。
フィリップ王子は決意した。自分でやらなくては。
真実の愛を貫く。
自分がやりたいことを成し遂げること。それこそが自由だ。
留学は、イケメンにはファンクラブが形成される危険があることを学んだが、そのほか自分はイケメンなのだと言う自覚が持てた。
それから、お金がとても大事だと言うことも。
「金玉商会がある」
彼にはカネがある。ハンナに、サファイヤのイヤリングを送った時の気持ちを思い出した。金があるからこそ、プレゼントが出来た。
あの時も母の王妃様には叱られた。しかし、結局事なきを得た。なぜなら、王家のお金を使ったわけではなかったからだ。
「自分の金は自由に使えることを学んだんだ。やりたいことが出来る」
フィリップは護衛騎士団に命じて、ハンナが出席するすべてのお茶会やパーティをリストアップさせた。
「全部、母上とご一緒なのか?」
一人きりの時を狙いたい。簡単に近づける学園でどうしてチャレンジしないのかと言えば、ヒルダ嬢がいるからだ。
イケメン武器にハンナ嬢に迫ったら、ヒルダ嬢が釣れてしまうかもしれない。
それ以前に、せっかく意気消沈させたエリザ嬢、ジョゼフィン嬢がくるりと戻ってきたらたまらない。
「殿下、何をなさるおつもりで?」
護衛騎士団が、胡散臭そうに尋ねた。
「サプライズで参加する」
護衛騎士団がどよめいた。
「おやめになった方が……」
「なんでだ」
護衛騎士団は顔を見合わせた。
「目立ち過ぎかと思います。王妃様を通じてお話を通された方が……」
「母など頼らぬ。自分で、直接会って伝えたいのだ」
フィリップ殿下は熱心に言い始めた。
「手紙じゃだめですか?」
「そんな。まだるっこしい」
会いたい。会いたい。会いたい。
会いたいのだと口に出した途端に、会いたいのだと言うことを思い出した。
「学園で会って話をすればいいのでは? 招待状も要りませんよ」
護衛騎士のうちの一人が助言した。
「学園はダメだ。なぜなら、僕がイケメンだからだ」
まあ、イケメンかもしれないけど、それが何か?
「素顔でハンナ嬢にアピールしたい」
なんとなくモヤる発言だが、とりあえず話を聞こう、みたいな雰囲気が広がった。
「だが、学園で素顔をさらして、ヒルダ嬢が舞い戻ってきたらどうする? せっかくジョージに押し付けたのに」
イケメンだと戻ってくるってこと?
「それに、万が一、究極のイケメン現るという評判が広がって、帰国途上のエリザ嬢やジョゼフィン嬢に届いたらどうするんだ」
正しい心配なのかもしれないが、全肯定しにくい気が起きるのはなぜだろう。
「あんなに苦労して追っ払ったのが水の泡になってしまう。僕には他人の顔色を読むなんて芸当出来ないんだから」
何のお話ですかと聞いた護衛騎士がいたため、フィリップ殿下は、熱心に、留学先ではやり逃げ男と言われ、帰国してからは、自分のことをモテ男と信じている痛い勘違い野郎の変態で、セクハラ物件だと(主にヒルダ嬢相手に)噂を広げられた経緯を事細かに説明しだした。
そんな話あったっけ?
「それもこれも、全部、イケメンだからだ。しかも、そう言う噂を振りまいてもらったお礼に、エリザ嬢とジョゼフィン嬢の滞在経費は僕持ちに決まったの。ひどいでしょ?」
エリザ嬢とジョゼフィン嬢も、最初は『氷の貴公子ファンクラブ』とか『孤高の美貌を崇め奉る会』とか言って、推しへの無償の奉仕とか言ってたくせに、だんだん個人的に深入りして来て、ハンナ嬢との結婚を阻止する方向に動いてきたんだとフィリップ殿下は訴えた。
「そりゃ、フィリップ殿下が悪いんじゃないんですか? ヒルダ嬢を断りたかったんですよね? 断ればいいだけでは?」
エリザ嬢やジョゼフィン嬢を巻き込む必要はなかったのでは?
「ヒルダ嬢しつこいんだもん。それに、ものすごく都合がいい縁談なので、放っておくとヒルダ嬢との縁組が流れるように決められてしまうのだもん。反対者は僕だけだったんだ」
「なるほど」
確かに王家の傍系の公爵家を、王家に吸収するような形になる。王家にしてみれば、無くした財産を回収するような心境かも知れない。
フィリップ殿下がヒルダ嬢を好みでない以外、特に問題はなかった。ヒルダ嬢はフィリップ殿下のこと、気に入っていたみたいだし。
「それだとその間に、割って入ったハンナ嬢が悪者なのでは?」
こんなことを言いだす若い護衛騎士まで現れた。殿下が激高しだす前に、分別臭い顔をした年かさの護衛騎士が押しとどめた。
「まあ待て。これが真実の愛だよ。殿下はやりたいことをやるとおっしゃっているが、真実の愛って、そう言うことさ。自分の希望を通すことなんだ」
「なんか違う」
フィリップ殿下は抗議したが、年かさの護衛騎士は続けた。
「カネと策略と王妃様を説得して、フィリップ殿下はハンナ嬢を手に入れたいのですね?」
「だって、ハンナ嬢と一緒にいると幸せなんだもの。無理をしたり、イラっとしたりしないで済むんだもん。それに一緒に同じことで笑い合えるし、同じものに興味があるんだ。僕はハンナのこと、もっと知りたい。何より早くまた会いたいんだ」
「うん。恋の病ですね」




