第72話 新しい相手を勧められる
でも、学園に行っても、最近はアレクサンドラ殿下は忙しいらしくて、あまり通学してこない。結婚の話が本格化しているのだろう。
学園にあっては、ハンナは最も身近にいる「ご学友」だったが、王宮からアレクサンドラ殿下が出てこなかったら、接点がないので、特に何もない。普通の生徒が、ごく普通に勉強しているだけだ。
特に最近は、ダンスパーティのような華やかなイベントがないので、ハンナは地味令嬢のお手本のような生活をしていた。
「まだ婚約していないわよね? きっと、ハミルトン伯爵家には、たくさん声がかかっていんじゃないかと思うけど……」
マチルダとリリアンは気を遣いながらも、声をかけてくる。
「学園内でも、前々からパーシバル様やアンドリュー様を通じて、お話が持ち込まれていたわよね。侯爵家とご縁が決まっていたので、誰も積極的に声をかけてこなかったけど」
そんなことはない。ランチの時にマチルダとリリアンと同席していると、アンドリューやパーシバルの友達を名乗る貴族の子弟が突然現れて驚かされたことが何回もある。
マチルダやリリアンみたいに学園内で縁を結ぶ人たちも多い。
「前も少し話したことがあったと思うけど、学園のランチに同席したい方々が大勢いて……。ごめんなさい。以前、断った方々が今、盛り返してきてるの」
アンドリューとパーシバルは、恐縮しながら言った。
「迷惑なことはわかっています。申し訳ない。正直な話、伯爵家とかそう言った爵位の高い家のご子息や、商売上で取引のある方々からの申し出は僕らが断ることはできないんだ。ハンナ嬢が嫌なら、本人の意思だから、そう伝えられるので、言ってください」
そうよね。勝手に断ることはできないでしょうね。
「今のところ、そんな気持ちになれないと伝えてくださいな」
ハンナは答えた。
「もちろん、そうよね」
マチルダとリリアンはうなずき、アンドリューとパーシバルはわかったと言った。
だが、マチルダが言葉を続けた。
「でも、その、なんだか、私たち、ちょっと悔しいのよね」
「何が?」
ハンナはちょっと意外に思って、顔をあげて、マチルダとリリアンを見た。
「だって、ジョージの有責だと思うの。あんな勝手な言い分で。だけど、ジョージはお咎めなしじゃない。それどころか、ちゃっかり公爵令嬢と婚約が決まったらしいのよ。どっちが浮気者なのよ」
リリアンが悔しそうに早口で言った。
「それにね、ジョージの真実の愛って、口実よね? 公爵家の方がいいと考えたに過ぎなくて、別にヒルダ嬢が好きでも何でもないんじゃないかしら?」
「こんなことを言ってはいけないかもしれないけど、私、ヒルダ嬢も、なんだか嫌なのよ」
マチルダも言った。
「あなた相手に、ジョージみたいな別にすごく魅力的ってわけでもない人を略奪して得意がってるわ。まるで自分の方が何というのかしら、魅力的だとか、ランクが上だとか思ってるみたい」
確かに賞金がジョージというのは微妙。エリック様ならとにかく。
でも、ダメか。エリック様は王子殿下。いろいろな面倒が山ほどついてくる。
特に問題なのは、はるばる隣国から追っかけてきたエリザ様とジョゼフィン様だ。
究極の面食いである。
「確かに公爵令嬢ですから、ランクは上ね」
ハンナは静かに言った。
「それにあなたのことは、モテない令嬢だって言いふらしているみたい」
「その話題をするのが好きよね、彼女」
ハンナも認めた。
「しかも、ヘイ家のダリア嬢とブラック家のバイオレット嬢は、最近、ヒルダ嬢のお友達になったらしいわ。しょっちゅうお茶会に呼ばれているそうよ」
うん。絶対、三人でハンナの悪口を言って盛り上がっているに違いない。
「ハンナがモテないとか本当に腹が立つわ。婚約者がいたから、ちゃんと分を守っていただけなのに! ヒルダ嬢が、そんなお茶会をやっているだなんて!」
「誰から聞いたの?」
「隣国からの留学生よ。マルクト公爵令嬢のエリザ様と隣国の宰相のご令嬢のジョゼフィン様とおっしゃる方よ」
ハンナは悪い予感に襲われた。
「あの人たち不思議なの。私たちのような身分の者にあちらから話しかけてくださって、あなたのことをいろいろ聞いて帰ったわ」
やっぱり。ハンナは不安になった。
「どんなことを聞かれたの?」
「なぜ、婚約が白紙になったのかとか……そんなような話よ。パーティの時に現れた美しい男性とやらについても聞かれたわ。情報があれば教えて欲しいって」
うわああ。
「そのほかに、あなたとフィリップ殿下との仲を怪しんでいるみたいだった。でも、私たちが知る限り、なにもないわ。フィリップ殿下は、最近は全然学園に来られないし」
ハンナはちょっとドキンとした。
殿下、学園に来ていないのか。




