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セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記  作者: buchi


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第63話 エリザ嬢とジョゼフィン嬢

エリザ嬢とジョゼフィン嬢が本当にやってきた。


ハンナはびくびくしながら二人の到着を待っていた。


客間は完璧に準備され、しつけの行き届いた侍女が配置されていた。


なにしろ相手は隣国の宰相の令嬢と、公爵家の令嬢。トップオブトップである。下手なヒルダ嬢より格式も高ければ、隙もない気がした。あのアレクサンドラ殿下が褒めているのだ。


「ようこそお越しくださいました」


ハンナは、柔らかな印象の青のドレスを身にまとって二人を迎え入れた。


「こちらこそ。押し駆けるような形でお邪魔してしまいまして」


エリザ嬢は、細くてメガネをかけていて、ジョゼフィン嬢はややふくよかな感じだった。

しかし、二人とも、得体の知れない威圧感を放っており、ハンナはたちまち萎縮した。


「あ、あの。どうぞおかけくださいませ……」


ハンナの身分で言うと、この二人の訪問は断れない。でも、一体何しに来たのかしら。


取り留めもない話をしながら、やがて二人の話は、エリック様ことフィリップ殿下の話に移っていった。


話しながら、エリザ嬢は黒いくりくりとした目でじっとりと、ジョゼフィン嬢は、一見にこやかのようにも見えるが全然笑っていない目つきでじっとハンナを見据えていた。


エリザ嬢が言った。


「……わたくしたちは、留学生のエリック様がいろいろな女性と気軽にお付き合いされるのを苦々しい思いで見ておりました」


ハンナはビクリとした。


「そんな行いをする男性は軽く扱われるのが普通ですわ。でも、エリック様は本当に美しい方でした」


ジョゼフィン嬢も固い口調ながら、夢見るように言い出した。


他人の口から語られると、あらためて、フィリップ王子殿下ことエリック様が、イケメンなのだと思い知り、同時に、ハンナにとってエリック様はイケメンだけの人ではないと気が付いた。


エリック様は……エリック様は……甘い容貌の美しい王子様では……ない。


どっちかというとメンドクサイ人物だった。


「私共は、エリック様が只者ではないと直感しましたの」


二人の口調が鋭くなった。


「あれほどの美貌、そしてどこまでも上品で美しい所作。貴族の端くれという触れ込みでございましたが、どこの家とも公表されなかった。確かに、低位の貴族の場合、身分をはっきり公表したがらないと言う者もおりましたが、どうもそれとも違う」


「同じような思いを抱く者は多く、わたくしたちは、同好の志を集めた会を結成しました。そして、徹底した監視体制を敷きました。だって、あまりにも美しかったのです、エリック様は」


エリザ嬢がコホンと咳払いをした。


「そしてついに突き止めました。エリック様に、月に一度程度、手紙が届くことを。そして、その送り主が隣国の王妃様であることを」


ハンナはゾッとした。執着心凄すぎ。


「まさか本当に隣国の王子殿下だったとは! これで、それまでの行いも納得できます。女性に不慣れであられたのですわ」


二人の表情には、美しい留学生が、実は隣国の王子だったという物語が本当になった時の驚きが現れていた。


「しかしながら、エリック様はすぐに帰国されました。私たちは、後を追う計画を練りましたが、世のしがらみは厳しく……」


宰相の娘と公爵家の娘じゃあ、そりゃあそうでしょうよ。

ハンナが隣国に留学すると言い出したら、両親がどんな顔をすることか。ハンナには想像もつかなかった。


しかもこの人たち、追っかけてきて何をするつもりだったんだろう。


「陰に日向に、殿下をお守りする聖使徒として活躍するためですわ」


「聖使徒……」


「殿下に悪をなすものに鉄槌を下し、殿下の望みをかなえ、その美貌を余すことなく世に知らしめたかった。そして、私どももそのご尊顔を、心行くまで堪能したかったのです。見たりなかったのです」


なんというか。


そんなことだけの為に、隣国の知らん学園まで出張……ではない留学しに来る? まあ、留学は特に止め立てするほどのもんじゃないと思うけども。


「ハンナ嬢」


ピクンと、ハンナは思わず椅子に座り直した。


ここまで、全く自分に関係のない話だった。

トップクラスに身分が高く、深窓の姫君だったに違いない二人の令嬢が、エリック様の美貌に魅せられて、はるばる隣国までやってきた話である。


じろじろ見つめられていたハンナだったが、話がここまで進んできて、今度はハンナが二人の顔を観察し始めた。


まあ、エリック様はハンナにデレデレなので、関係がない訳ではないが、この二人、そのことを知っているのかしら?


「私どもがこちらにきて、驚いたことは、殿下の婚約者を一方的に標榜する厚かましい女がいたことです」


「え。あの。ヒルダ嬢のことでしょうか」


エリザ嬢とジョゼフィン嬢はいかにも嘆かわしいといった様子で、深くうなずいた。


「全く汚らわしい。そして、殿下はなぜかフードをかぶり、顔を隠していらっしゃいます」


「そうですわね」


ハンナはおとなしく同意した。正確にはカツラだけど。まあ、顔を隠している件に関しては全く意味が解らないが。


「ハンナ嬢は、アレクサンドラ殿下の腹心とお聞きしました」


腹心。


ハンナは控えめに訂正した。


「いえ、あの。腹心ではございません。私は、殿下のご学友でございます。学園内において、殿下のお手伝いをさせていただく役割でございます」


エリザ嬢の方がキリッとした表情で言い出した。


「でも、あなたはアレクサンドラ殿下に大層気に入られていると聞いています」


「アレクサンドラ殿下を通じて、エリック様があの変装をされるのを止めてくださるよう、伝えていただきたいのです」


「隣国で、目にしたあのお美しい姿をもう一度目にしたい。そしてエリック様はエリック様にふさわしい扱いを取り戻してほしいのです」


ハンナはデジャブ感に息を飲んだ。


この流れ、なんだかどこかで聞いたような?


「私はアレクサンドラ殿下のご学友で、フィリップ殿下と接触することはございません」


ハンナは平板な調子で言った。


そんなことはない。エリック様ことフィリップ殿下は隙さえあればハンナにへばりついてくる。だが、そんな火薬庫に手榴弾みたいなことは言わないに限る。


「それに私は高々伯爵家の娘で、殿下にしてみれば侍女のような存在でございます。殿下に私からお願いなどと、大それたことは致しかねます」


「それでもね、ハンナ嬢」


ジョゼフィン嬢とエリザ嬢は、グイッと身を乗り出してきた。


「私たちはいずれ国に帰ります」


ハンナはうなずいた。異論はない。できれば早めにご帰国いただきたいくらいだ。

あのヒルダ嬢と平然と友達になり、ジョージの片棒を担いで、ハンナが浮気している?という噂を吹き込んでいる人達だ。


「アレクサンドラ殿下も、いずれ我が国にお嫁ぎあそばしますわ」


「私たちは宰相の娘と筆頭公爵家の娘。隣国の社交界で、両親ともに活躍しておりますわ。いずれアレクサンドラ殿下もご一緒することでしょう。殿下と仲良くできたらと思いますの」


ハンナは黙った。



それから言った。


「ご自分で、アレクサンドラ殿下にお伝えになられたらいかがですか?」






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