第35話 鬼畜・姉
「話は、まだ終わっていないの。ハンナ嬢はどうするつもりなの?」
「ハンナ嬢は……あの好きです」
アレクサンドラ殿下はきれいな眉をキリッと寄せた。
誰もそんなこと聞いとらんわ。
「きれいでかわいいです。気が利いて、おしとやかで控えめで、話していると楽しいです」
アレクサンドラ殿下はイライラしてきた。
「そうではなくて! ダンスパーティの会場で、ハンナ嬢は一人で入場するでしょ?」
「僕がエスコートします」
「ダメに決まってるじゃない。さっきからの話、聞いていなかったの?」
姉に続いて王妃様も言い出した。
「いいですか? フィリップ。あなたが変態セクハラ物件だろうと、氷の貴公子だろうと、ハンナ嬢は男にエスコートされて入場してはならないのです。そんなことをしたら、ジョージの思う壷で、ハンナ嬢の有責で婚約破棄されてしまうのです」
「婚約破棄大歓迎です」
「そんなことをしたら、今度は何の罪もないハンナ嬢が事故物件扱いになってしまいますよ? あなたのせいで。あなたはハンナ嬢の父上の伯爵を敵に回したいのですか?」
「はっ!」
ハンナ嬢には家族がいる。
「ハンナ嬢の父上は由緒正しい貴族の家柄ですが、同時にカミソリみたいに頭が切れると評判の大商人です」
フィリップ王子は目をパチパチさせた。そこは全く考えていなかった。
「更に、イケオジとして有名です」
えっ。そうだったのか。
「しかもあなたと違って、女性にモテまくっても、まったく跡を濁しません。ファンが増えるだけです」
そんな歴戦のイケオジと比べないで欲しい。
「ハンナ嬢は、週一回の割合で学校を必ず休んでいました。あなたのデートでね。みんな怪しいと思っていると思うわ。でも、相手が誰だかわからないと思うの。唯一発見したのは例の『氷の貴公子ファンクラブ』代表のエリザと『孤高の美貌を崇め奉る会』の副会長ジョゼフィンだけですからね」
いちいちその名前、言うのやめてもらえないかな。
「でも、誰とデートしていたかより、週一でクラスを抜けていたことの方が重要だと思うのよ。彼女が何をしていたのか、誰も知らないじゃない。そこにジョージは付けこむと思うの」
「ううう」
名乗りを上げたいところだが、ヒルダ嬢から何を言われるかわからない。なんで婚約してないのに、婚約してるみたいな扱いなのだ。それに敏腕のハミルトン伯爵にしても、ヒルダ嬢の父上の公爵家に逆らえるかどうか。
ヒルダ嬢の父上の公爵は、あまりしっかりした人物とは評されていないが、それでも大領主なのだ。
「誰も知らないと言うことは、逆にどんな悪い噂を流されても、反論のしようがないのよ。最悪、世間から王家に嫁ぐのは無理だと判断されてしまうかもしれないわ。世間は怖いわよ?」
フィリップは涙目になった。だけど、疑問に思った。ねえ、どうしてアレクサンドラはそんなに楽しそうなの?
「助けて上げましょうか?」
アレクサンドラ殿下は意地悪そうに、楽しそうに、言った。




